こんにちは、椎名です。僕は身体の性は女性ですが、心の性は定めていないセクシュアルマイノリティです。現在、女性のパートナーと生活をともにしています。
私ごとではありますが、少し前に転職を理由に勤め先を退職しました。セクシュアルマイノリティであることを社内で公にカムアウトして働くことを望んだこともありましたが、とうとう退職するまで一部の同僚など以外には公にすることができませんでした。
あまり詳しくは書けませんが、それでも比較的長く勤めることができたと思える勤め先でした。
今回はなぜカムアウトをすることができなかったのかお話します。あなたの勤め先にいるかもしれないセクシュアルマイノリティについて考えるきっかけになったら幸いです。
「カムアウトしない」が普通だった入社年
僕が以前の勤め先(以下、前職と書かせていただきます)に入社したのは、まだいまのようにLGBTQ+についてニュースで取り上げられる以前のことです。
僕を含めて、大半の方がセクシュアルマイノリティ当事者だということを隠すことは当たり前のことで、ましてや会社でカムアウトするなんてもってのほかと考えていたと思います。いまもそうかもしれませんが、いまよりずっとその色は濃かったと感じています。
なので僕も入社時は、会社にも同僚にもカムアウトをしていませんでした。
入社後、渋谷区や世田谷区がパートナーシップ制度(LGBTQ+のカップルに対して、自治体が独自に「結婚に相当する関係」とする証明書を発行し、さまざまなサービスや社会的配慮を受けやすくする制度)の導入を開始。
当時住んでいた自治体はパートナーシップ制度を導入してないなかったので、僕たちは制度を利用することができませんでしたが、その代わり翌年にウェディングフォトを撮影しました。
2020年末には一緒に住宅も購入しました。しかしその間もずっと、ほとんどの同僚や上司にとって僕は“未婚女性”でした。
日常的な雑談のなかでは、かけがえのないパートナーをどんなに愛していても、ルームシェアをしている友人として話していました。
異性愛者であれば会社の福利厚生で結婚に伴う祝い金や休暇を得られることもありますが、それも得られません。ひとつひとつは大きいことではないと感じるかもしれませんが、少なくとも僕にとってはそうではありませんでした。
百歩譲って、大したことではなかったとしても、それらが何度も何年も繰り返し積み重なれば心に重くのしかかります。
だからこそ転職を決断する前に、長く勤めたいからこそ社内で公にカムアウトをすることができたらいいのにと考えるようになったのです。
公にカムアウトする第一歩
前職で僕は直属の上司に本当に恵まれました。長時間労働が常の職場だったので慢性的に業務過多ではありましたが、この上司が僕や周囲に対して性別や年齢ではなくその人が持つ特性を見て接してくれたので、長く勤めることができたのだと思います。
仕事の相談もしやすく、僕も上司と話をするのが好きだったこともありとてもよくしてくれました。完璧な人ではなかったかもしれないけれど、僕が「この人はならカムアウトをしてもきっと受け入れてくれる」と考えるには十分な人柄を持ったかたでした。
自身の30歳というある意味区切りある年齢が見えてきた年末、年に数回行われる上司との面談の席で上司にカムアウトをしようと決めました。
30歳という年齢をキャリアプランのひとつの区切りと考えていたので、僕が出世や今後のライフステージに対してどう考えているのかを知っていたほうが、上司はマネジメントしやすくなるのではないかと考えたことがその理由です。
実際にカムアウトをしてみると、驚いた様子ではありましたが、何よりも先に「社会的な保障(おそらくパートナーシップ制度のことだと思います)をちゃんと受けられているのか」と、僕が置かれている状況を心配してくれたのをとてもよく覚えています。
カムアウト後も、それまでと変わらず接してくれました。パートナーの体調不良で残業が難しいときなど、相談できて助かった場面もあり、上司にカムアウトをしてよかったと思っています。