裏切り男の末路
「わかりました。きょうはもうお帰りください。この後のことは弁護士と相談して連絡します」
「弁護士と相談って大袈裟な、ねえ」
父親にまっすぐ見つめられて、正孝は一気に縮こまる。
「あなた方とは話にならないとわかりましたので、弁護士を通した方がいいでしょう。まあ…あなたたちと大事な娘が結婚しなくてよかったといまはつくづく思っていますが」
明らかに侮辱されてカッとしたのだろう。義母が何か言いかけるが、大きく息を吸って言葉を飲み込んだ。
そのまま3人が家を出ていくのを見届けた後、ソラがやっと寝室から出てくる。
「ねえ奈々子、いまから指輪売りにいきましょうよ。このお金と慰謝料もらって、パーっとハワイにでもいきましょうよ」
「でもあの人たち、慰謝料払わないって」
「大丈夫だ、絶対払わせる。自分たちが間違ってたって気づかせてやる」
両親に背中を押され、私は静かに頷いた。
状況が大きく動いたのは、それからさらに1カ月経ってからだった。正孝からの久しぶりの電話に「弁護士から本格的に示談書が届いたんだろうな」と思って出てみると、正孝の泣き声が響いている。
「え?何、聞こえない」
正孝は号泣し続けている。そのせいで言葉が何も聞き取れない。
『だっ、だから…お、小野寺さん…逃げちゃって…』
「え?逃げた?」
『小野寺さんにお金貸してたんだけど、なんも戻ってこなくて…!』
「…で?」
つまり、正孝が私との婚約を破棄してまで愛した小野寺さんは、正孝のお金をとって消えたと言うことだった。
『お金なくって…慰謝料も払えなくて…』
どうやら弁護士からの連絡にビビっているらしい。お金はないうえに300万払えという連絡を聞いて、もうどうしようもなくなったそうだ。
「正孝が騙されたのって、私への慰謝料とは関係なくないかな」
『ごめん…!許してほしい、お願いします』
鼻をずるずると鳴らしながら、正孝は懇願してくる。しかし、もうそんなこと知ったこっちゃなかった。
あの指輪はすでに換金されたし、私は家具をすべて持ってすでに引っ越していたから。
「ごめんね、許せない。私の3年は返ってこないんだもの」
『お願い、お願いだよ奈々子…頼む…』
「無理。あーでも…唯一感謝するとするなら…あなたやあなたの両親が最低な人だったってこと、結婚前に気づかせてくれてありがとうね」
『奈々子…!』
そのままぶちりと電話を切る。
何度もスマホが振動するので、布団の奥に放り投げた。慰謝料をもらうまでは着信拒否にはできない。グッと拒否したい衝動を抑え、私はソラを撫でる。
数日後、無事正孝から慰謝料が振り込まれた。お金がないと言ってはいたが、起業資金はまだ残っていたらしい。ハワイへの便を抑えながら、私はすっきりした薬指を見つめるのだった。
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