結婚を前提に付き合っていた彼氏から、ある日突然婚約破棄されたらあなたならどうしますか…?
今回は、3年付き合っていた彼氏に婚約破棄されてしまった奈々子のお話。彼女はどのようにして、婚約破棄の痛みを乗り越えたのでしょうか。
- 登場人物
- 奈々子:この物語の主人公
- 正孝:菜々子の婚約者。交際3年
- ソラ:奈々子と正孝が飼っている猫
- 小野寺:正孝と起業セミナーで知り合った女性
3年付き合った彼氏からの「突然の婚約破棄」

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「奈々子、俺と別れてほしい」
正孝と付き合って3年、婚約して半年。入籍までは、あと1カ月だった。
同棲中の1LDKのマンション。ホワイトウッドを基調としたインテリアは、正孝が「奈々子の好きな家具でそろえよう」と言ってくれて集めたものだ。
一番のお気に入りは、いま目の前にある楕円形のローテーブル。冬はこたつにもなるので、飼い猫のソラもお気に入りらしい。
そんなテーブルのうえに、いま正孝が置いているのは買ったばかりの結婚指輪だった。
目の前にズン、と重くのしかかる現実はどこか他人事のように感じる。膝のうえで丸まるソラの体温だけが現実味を帯びている。
「別れる…って、婚約破棄ってこと?」
「うん。ごめん」
起業したいんだ。そんな正孝の夢を応援し、懸命に支えようと思って、会社員からパートの事務員に転職したのがちょうど3カ月前。
忙しくなったときに家のことはすべて奈々子に任せたい。そんな彼の要望を飲んだ結果だった。
彼の仕事の支えになれば…と秘書検定や簿記の資格も取った。本棚には新たにファイナンシャルプランナーの本も並んでいる。
「私…仕事も変えたんだよ?親にも挨拶に行ったし、いまさらそんなこと」
「ほかに、好きな人ができたんだ」
正孝の思わぬ発言に、思わず身体が固まった。私の体の硬直を察知したのか、ソラが顔を上げる。
「浮気してるの?」
「浮気なんてそんな。関係は持ってないよ」
「誰?私の知ってる人?」
「去年起業セミナーで知り合った小野寺さん。ショートカットの…覚えてない?」
必死に記憶を思い出す。そういえば「起業仲間との飲み会があった」と写真を見せてくれたなかに、短髪の女性がいたかもしれない。目が大きく笑顔が素敵だなと感じた印象がある。
だけど、正孝はそんな女性がタイプだっただろうか?私のように茶色い髪を長く伸ばし、ボディラインの見えるキレイめな服を着て、大人っぽいメイクをしている女性が好きだったんじゃないのか。
小野寺さんはセクシーな女性というより、可愛らしく童顔な印象なのだが。
「これまでの私の努力は何だったの?あなたのために仕事まで変えた…服の趣味も変えたし髪型だって。とにかくあなたに尽くしてきたのに」
「献身的に支えてくれる女性より、俺は同じように切磋琢磨しながら進んでいける女性の方がいいと思ったんだ」
「何それ。私の努力をそんな簡単な理由で無駄にするの?」
「ごめん、努力してくれたのはありがたいけど…このまま結婚しても奈々子のこと愛せないよ」
それはたしかにそうだなと思った。こんな話を聞いてしまった以上、結婚してもいずれうまくいかなくなるのは一目瞭然だった。
そうだね、と一言で受け入れられたらいいのだろう。頭ではわかっていても、感情はちっとも追いつかなかった。彼に費やした3年という月日は、それくらい長くて重いものだった。