「LGBT理解増進法案」の話題とともに、トランス女性(生まれたときの性は男性で自身のことを女性と認識しているかた)へのヘイトが高まっていると感じています。
筆者の僕も、セクシュアルマイノリティです。身体が女性で、心の性別は定めておりません。衣服のほとんどは男性用を着用していて、髪型もメンズカットにしています。
今回は性別がわかりにくい見た目をしている僕が、女性用トイレや浴場へ入ることに負い目を感じた出来事についてお話します。
「大前提」として…
大前提として、僕はトランスジェンダーのかたの権利や尊厳が守られてほしいのと同時に、身体が女性であるかたの身の安全も守ってほしいと願っています。そのことを念頭に置いて、読み進めていただけると嬉しいです。
昨今巻き起こっているトランスジェンダーの大衆浴場やトイレの問題は、トランスジェンダーに対する誤解も孕んでいるとセクシュアルマイノリティ当事者のひとりとして感じています。
また、大衆浴場やトイレの問題がセクシュアルマイノリティにとって一番の問題のように扱われることにも大きな違和感があります。
LGBTQ+当事者にはトランスジェンダーにあたるかた以外に、心の性と身体の性が一致している「シスジェンダー」のかたもいます。
もしくは僕のように心の性と体の性が不一致で、心の性が「男」「女」のどちらでもない場合もあります。
ひとことに「LGBTQ+」と一括りにしていても、包括するジェンダーはとても多様なのです。
大衆浴場やトイレの利用に関することは当事者にとっての困りごとの大部分ではなく、あくまでたくさんある問題の内の一部分であり、大衆浴場やトイレの利用に関すること以外で起きている多くの課題や困りごと、そして差別についても解消を望んでいます。
僕は女性用の浴場に入っていいのだろうか
今年のはじめ、ある入浴施設に足を運んだ際の話をします。
僕は以前から入浴施設が好きで、頻繁ではありませんが年に何度かは日帰りの入浴施設に足を運んでいます。
その宿泊施設は、大浴場が目玉。広いお風呂を存分に楽しむべく、ホームページを見ながらとても楽しみにしていました。
ふと、宿泊施設の館内着はどんなものだろうと調べてみると、過去に宿泊したかたのレビューに「男女で分かれていた」という言葉を見つけました。
しかも女性用が赤いワンピースで、男性用は緑色のパンツタイプ。「これを着るの?」と思わずたじろいでしまいました。
気に入ってよく足を運んでいた入浴施設も館内着は男女で色分けはされていましたが、色合いは地味で、男女ともにパンツタイプだったので嫌悪感はなかったのです。
普段からメンズ服で子どものころから女の子らしい服が大の苦手だった僕は「ワンピース、しかも赤なんて絶対に着たくない!」と一気に楽しみだった気持ちが半減してしまいました。
パンツタイプの男性用を素知らぬ顔で持って行ってしまおうかと思いましたが、今度は男性用の館内着で女性用の浴場に入ることができるのか心配に…。
身体は女性で、性別を変える手術やホルモン治療は受けていないので、服を脱げば僕の見た目は間違いなく女性。だけど服を着た状態、しかも“男性用”とされる館内着を着ていたら男性だと疑われるのだろうか。もし疑われたとしたら、入らないよう止められたらどうしよう。
「Xジェンダーで男性用を着ているけれど身体は女性です」と説明しなければいけないのかなと想像して落ち込みました。
いままでもメンズ服で入浴施設の女性用スペースを利用していて止められたことはないので、きっと大丈夫だとは思います。でも、もしもそうなったら、一緒に行く彼女も楽しい思い出にならないかもしれません。
「きっと大丈夫だよ」と彼女に励まされて実際に宿泊施設に足を運ぶと、レビューとは異なり「女性用・男性用」とされていた館内着のレンタルブースは、「ワンピースタイプ・パンツタイプ」という表記に変更されていました。
おかげで安心して、堂々とパンツタイプを手に取ることができ、その恰好で女性用の浴場にも入ることができました。
むしろ僕以外にもパンツタイプを着ている(おそらく)女性たちが何人もいたので僕の心配は杞憂に済み、楽しい思い出になりました。
こうした不安は、正直これまで感じたことがありませんでした。
先ほどお伝えした通り、僕の身体は服を脱いでしまえば紛れもなく女性の身体であるとわかる自覚があったからです。なので、入浴施設以外の女性専用スペースでも、入って断られる心配をしたことはありませんでした。
心配をしたきっかけは、トランス女性たちへのヘイトが高まってしまったことで、“メンズ服にメンズカット”で、男性にも見えるかもしれない見た目をしている自分が、女性用トイレや浴場へ入るのは、はばかられることなのかもしれないという不安が込み上げたからでした。