2023年春ドラマ『あなたがしてくれなくても』。
ラストシーンが波紋を呼んだ6月22日放送の最終回の放送終了直後、原作マンガの作者であるハルノ晴さんの公式Twitterで、ドラマでのラストはドラマだけのオリジナルであり、マンガでのラストとは異なるストーリーであることが明かされました。
主人公みちの選択に「え!これで終わり?」とモヤっとしたかたも、もしくは「みちにとってはこれが一番よかったのかも」と納得できたかたもいらっしゃったかと思います。
今回はドラマとは異なるラストへ向けて突き進む『あなたがしてくれなくても』について、原作マンガを刊行ごとに読み進めてきた筆者が本作を通して考える夫婦のレスについて感想を交えて考えます。
- ※最新11巻は6月28日に発売しています
- ※一部ネタバレを含みます
夫から、妻から。夫婦間のレスを描く
レスに悩む主人公のみちと夫の陽一の吉野夫妻と、みちと同じくパートナーからのレスに悩む誠と妻、楓の新名夫妻。
彼らを通して描かれる夫婦間のレスという悩みは、近年増加傾向にあるともしているとも言われています(参考:第4回ジェクス・ジャパン・セックス・サーベイ 2020)。
人には相談しにくいテーマを扱うこの物語も、主人公のみちが夫からのレスを受けていると誰にも相談できずに思い悩んでいるところからスタートします。
夫である陽一は、みちに「子どもはほしい」とは言うものの、いざ誘われると「勘弁してよ」と背を向け、挙句「色気がない」と自分が断る原因は彼女にあるように振舞います。
「色気がない」と言われたみちは、彼女なりに下着や部屋着に気を配り工夫を試みますが、そう簡単にレスの解消とはいかずどこか空回り。
悲しいけれどよくあるレスの風景中、彼女は職場の同僚である新名誠とひょんなことからパートナーからのレスに悩んでいることを打ち明け合い、距離を縮めていきます。
したくない側の「アウト」
みちと誠、それぞれからの営みの要望を拒むパートナーの陽一と楓の共通点は、パートナーに甘えすぎてしまっていたこと。
陽一はみちからの誘いを「いまの案件が終わるまで」と2週間先延ばしにした挙句、「妻だけEDですね、とかなんねーかなぁ。病名ついたら楽なのになぁ…」と、面倒くさそうに考えます。
作中で度々陽一が口にするこのようなその場限りの誤魔化しの言葉は、まるで母親が子どもの駄々っ子に「もう、しょうがないわね」なんて折れるのをみちに求めているよう。
物語の終盤に差し掛かる、マンションの購入を検討するシーンで彼は義母に対しても「とりあえずいまはなだめとけばいいんだよ」と言っているのが、そう感じる最たるものでした。
物語を通して陽一にどこか子どもっぽい印象をおぼえるのは、みちに対して母親に甘えているように見えてしまうからかもしれません。
楓にとってのパートナーに甘えすぎていた部分は、“家庭を営むこと”だったと感じたのは筆者だけではなかったはず。
特に印象的だったのは、誠が楓の友人へ出産祝いを送るために送り先の電話番号を教えてと帰宅した彼女に頼むシーン。
帰宅直後で疲れているのか、あとで教えると話していたのに楓はすぐに忘れてしまいます。
その様子に思わず誠に代わって「あなたの頼み事を代わりにやっているのに、話聞いてないの?」と言いたくなってしまいました。
些細なことかもしれませんが、こういったことの積み重ねで「パートナーは自分の話を聞かない、重要だと思ってはいないのだな」と感じるのではないでしょうか。
作品のテーマはレスではありますが、誠が「オレは君の仕事のためだけにいるの?」と考えた背景のひとつには、そういったことも含まれていたと感じています。