不倫に踏み出す「正当な理由」はある?
ではみちと誠に至らなかった点がまったくなかったかといえばそうではなく、作中でもそれぞれがパートナーに対し自分がとってきた姿勢を顧みる場面もあります。
筆者がモヤモヤしたのはパートナーに対しての向き合い方ではなく、仕事終わりにふたりきりで飲むシーンについてです。
みちと誠がふたりきりの時間を過ごす場面は、何度も登場します。
パートナーに営みを拒否されたからといって、何も言わずに異性とふたりで飲みにいくのはよいことなのでしょうか?
「そうもしたくなる」という気持ちはわかりますが、それをしたくなったり空想するのと、行動におこすのとはワケが違います。
みちも誠も、もしパートナーが異性とふたりきりで飲んでいたら嫌だと思わないの?一線を越えていなければ、ふたりきりでいい雰囲気になっていてもいいの?ふたりへの疑問は尽きません。
ふたりが惹かれ合うことを相手がレスをすることと天秤にかけて、「これくらいいいでしょ」と行動してしまうのならば、本来それはレスをきっかけに別れたいと思う場合ではないかと考えてしまいます。レスの問題は、相手と向き合わなければ絶対に解決しないのですから。
現にみちは誠とのキスの際、かつてお互いを想いあっていたころの陽一を重ねていることから、少なくともこのころは陽一への気持ちが残っていたはず。それなのに「あなたに惹かれてる」と誠に言われ、「わたしもです」と答えてしまう。
ふたりが解消したい問題は、パートナーとのレスだったはずなのに。
「する」だけでなく、「しない」にも同意が必要?
冒頭でも書かせていただきましたが、近年レスの悩みを抱える人は増えているそうです。
本当に増えているのかもしれませんが、人に言えない悩みとして口にすることも文字にすることも難しかったものが、悩みとして表へ出しやすくなったということもあるのではないでしょうか。
一見増えてみえるだけで、潜在的に悩むひとや相手に無理に合わせてきた人は以前から存在していて、それが表出したというか。
筆者もパートナーとのレスの経験があります。それも「しなくない側」「したい側」両方のパターンともで。
僕とパートナーは周りからも仲のいいカップルだと思われていて、自分たちにもその自負があります。
なのでみちが新名に言ったように、レスになる以前の僕は「まさか自分がレスになるなんて」と思っていました。
レスはお互い無関心で冷めきっているカップルがなるものだというイメージがあったからです。しかし、そうではありませんでした。
毎日ハグは欠かさないし、キスもする。言葉でだって日常のなかで小まめにお互い感謝を伝えている関係でいても、レスになるときはなるのです。
数回のレスでそれぞれ話し合いをしたのですが、毎回「このまま別れ話になるかもしれない」と思っていました。
そのくらいお互いにとって性愛がパートナーシップには欠かせないものだったので、したい側だったときもしたくない側だったときも同じくらい本当に真剣に話し合いをしました。
することに性的同意が必要なのと同じくらい、したくないことにもある程度同意が必要なのだというのが、数回のレスを乗り越えて得た筆者なりの答えです。
だからこそ、向き合おうとしてこなかった陽一には読んでいて憤りが募りました。
11巻では、彼にとっての答えが出たようです。次は、新名夫妻。どちらのレスも経験したからこそ、誠と楓が出す答えにも注目してラストを見守っていきたいと思います。
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