乳腺炎etc…新たな「悩み」
眠れない夜が明け、翌朝、看護師さんたちの忙しい朝の時間をさけてクレームを入れてやろうと目論んでいたわたし。ですが、ある異変が起こります。
いつものように息子におっぱいを咥えさせると、自分のなかで何かの物質がドバーっと出たのがわかりました。
いままでに味わったことがない感覚。そこからムクムクとおっぱいが張り、いきなり母乳が出たのです。
息子が咥えているので量はわかりませんが、息子もグビグビと飲んでいる様子。
咥えた刺激で母乳が出ることを体感し、そして息子は飲み方を教えなくても飲めることをこの目で見たことで、生命の神秘を感じて感動してしまいました。何このよくできたシステム!
わたしの大事な胸をこねくりまわした感じ悪い看護師への恨みは消えませんが、そのおかげで母乳が出てしまったのでクレームも入れにくくなり、とりあえずそのことは脇に置いて母乳を出すことに専念しようと思いました(結局16年後のいまも、その痛みはきっちり覚えていますが)。
はじめは戸惑いましたが、お互いだんだんと授乳に慣れてくると、息子とわたしの間で合図のようなものができてきました。
息子がわたしのおっぱいをまず2〜3回、クイクイっと合図のように吸う。するとわたしの脳から何か物質が出たのがわかります。
わたしの場合、ちょうど眉間のあたりがムズムズするような、眠くなるような感覚があり、その数秒後におっぱいがグワングワンと張ってきます。
もともとあまり大きくなかったわたしの胸ですが、そのころのおっぱいは、メロンぐらいの大きさ。しかも血管が浮き出ちゃってるような「母乳タンク感」満載のおっぱいでした。
あの地獄の母乳マッサージのせいか、もともとの乳腺の数のせいか、とにかく出始めたら止まらないくらい母乳が出て、息子も割ときっちり飲んでくれたので助かりました。
看護師さんの話では、赤ちゃんとお母さんの相性もけっこう大事で、女の子は吸う力が弱いので母乳がバンバン出ても飲み切れないでママが困ったり、逆にママはあまり母乳が出ないのに、男の子で足りないと泣いたりというパターンもあるらしいので、うちはまぁその点「需要と供給」に関してはバランスよかったのかもしれません。
ただ困ったのは、母乳スイッチは脳のホルモン次第なので、息子がおっぱいを吸わなくても母乳スイッチが入ってしまうこと。
息子の寝ている間にちょっと外出した先で、うっかり息子のことを思い出してしまった瞬間に母乳スイッチが入ります。
息子のことが頭に「よぎる」レベルでも脳内スイッチが入って、「しまった」と思ったときにはもう母乳を作り始めて胸が張ってくる。
飲む人がいないので、むなしくブラのなかで母乳が噴水のようにぴゅーぴゅー出てしまうので、母乳パッド必須。
家で子どもが寝ているときにもそれは起こります。寝顔を見て「かわいいなぁ」と思った瞬間にスイッチオン!
やばいと思ったらあわてて哺乳瓶を手に取り、胸に装着。誰にも飲まれない母乳をキャッチします。
母乳がもったいないので再利用できないかと、わたしが初めて少しだけ外出するときに、試しに母乳を哺乳瓶に入れて夫に預け、泣いたらあげるよう伝えて出かけたのですが、ずっと本物のおっぱいに慣れていた息子は哺乳瓶のゴムを受け付けず、舌ではじいて飲まなかったそうです。
お仕事など、ゆくゆくは子どもを保育園に預けるなどで哺乳瓶が必要な場合は、早めに哺乳瓶に慣らしておく必要がありそう。
看護師さんいわく、最初から哺乳瓶のゴムに慣れてしまうと、リアル乳首の飲み方がわからなくなるらしいです。さらにミルクのほうが母乳より味が濃いので、ミルクになれると「母乳まずっ」となって飲んでくれなくなるらしく…。
そんなこんなでわたしはスパルタ指導のおかげで「母乳育児」という意味では成功しましたが、逆に母乳が出すぎてすぐに母乳が詰まり、乳腺炎になりまくりました。
乳腺がちょっと詰まっただけで高熱が出るんですよ。おっぱいは赤く腫れあがって痛いのなんのって。
インフルエンザばりの高熱で動けなくなるのですが、一刻も早く母乳マッサージで詰まりを取らないといけなくて、タクシーで母乳相談室に駆け込むなんてこともザラ。
しかもわたしの胸は乳腺が細くて数が多いので、母乳マッサージで詰まっている場所を発見するのが至難の業らしく、新人さんでは解決しないまま終わることも多く、当時看護部長だったゴッドハンドの看護師さん指名でやってもらっていました。
その方にマッサージしてもらうと、「ん?ここ?」と勘どころがあり、詰まりが解消。うそみたいに症状が引くのです。
わたしはこんなゴッドハンドが身近にいたのでよかったですが、みんながみんな出会えるとは限らないでしょうし、出すぎるおっぱいに苦労されている方も多いと思います。
それぞれの選択を尊重できる世のなかに
わたしのように出すぎる悩みもありますが、「出ない悩み」も大変そうでした。
同じ病院で母乳育児を指導されたママ友は、どうやっても母乳が出ないのになかなかミルクを出してくれず、子どもの体重減少が心配で看護師さんに抗議していました。
さきほど挙げたとおり「はじめからミルクに慣らすと母乳を飲まない」という理由で、よほどのことがないとミルクに踏み切らない方針だったので、出ないママも苦労していました。
わたしのお世話になった病院ではこのように「スパルタ母乳育児」の方針でしたが、あとから知り合ったママに聞くと、別の病院では、病院自体がミルクメーカーとがっちり手を組んでおり、しょっぱなからミルクをあげてもOK。なんなら退院時にミルクの缶もプレゼントしてくれたそうです。
出産する病院を決めるときに、母乳育児かどうかなんて確認せずに一番近い病院にしたので、ここまで産後の対応が違うとは思いませんでした。
また、わたしと同じ病院で出産したものの、吸う力が弱くて口も小さい娘さんがうまく母乳を飲めず、吸わないのでママもあまり母乳が出ず、という悪循環に陥ってしまったというママもいました。
それでも真面目に母乳育児の指導を受けていたので、子どもがなかなか寝てくれず、ほぼ1日中ずっと授乳していたそうです。当時は座って寝ていたよう…。
離乳食の時期に入るともりもり食べるようになり、おっぱいを卒業しましたが、彼女いわく「振り返ってみれば、あそこまで無理せずに早くミルクにすればよかった」と言っていました。
わたしのように、スパルタ指導を受けても成果が出ればよいですが、そうでない人もたくさんいたと思います。
逆に、どうしても母乳で育てたくても出ない人もいます。
何人かにヒアリングしましたが、母乳が出なかったママは当時を振り返って「出ないもんは出ないんだよ」と言っていました。
こればかりは個人差で、もともと持っている乳腺の数や体質などに依存するのでしょうから「母乳育児こそ正義」みたいな方向性だと辛くなる人が多いのかなと思います。
わたしの経験を通じて思うことは、ただでさえ大変な育児なのだから、変なプレッシャーをかけずにやれたらいいなぁということ。
技術が進歩してミルクも高性能になってきたわけですし、共働きも増えている。
それぞれが希望する育て方やライフスタイルに合った育て方を選んで、それぞれの選択を尊重できる世のなかになるとラクなんじゃないかなぁと思います。
- image by:Shutterstock
- ※掲載時の情報です。内容は変更になる可能性があります。