みなさんこんにちは。露木行政書士事務所の露木幸彦です。
新型コロナウイルスの流行により変貌した私たちの「新」生活様式は、夫婦間の意識の差を浮き彫りにしました。なぜなら、他人との接触は減り、そのぶん配偶者との接触は増えたからです。
一見すると、夫婦で過ごす「おうち時間」が増えるのは望ましいように思えますが、どうなのでしょうか?
筆者は夫婦の悩み相談を専門に行っていますが、コロナ前の男女比は6:4。しかし、コロナ後は1:9という印象です。夫への不満や愚痴、悪口を言いに来る妻にいかに多いことか…。
相談者の年代も、緊急事態宣言によって一変しました。宣言前の2月、3月の相談者は主に現役世代。具体的には「亭主は元気で留守がいい」と夫が単身赴任先から戻るのを妻が拒絶したり、体力的、精神的に限界の看護師妻に夫が家事を丸投げしたり。
一方、宣言後の4月、5月の相談者は退職世代が中心です。たとえば、感染の予防、自粛の協力、物資の入手など、目まぐるしい変化によって夫婦間に溝ができたという内容。
平時には見過ごしていた夫の欠点や短所、至らない点が有事に明らかになるというパターンが多い印象ですが、なぜ取り返しのつかない状況に陥ったのでしょうか?筆者の相談実例をもとに紐解きましょう(※登場人物はすべて仮名です)。
悠々自適な老後生活、そしてステイホームへ…
- 登場人物
- 宏さん:62歳
- 節子さん:56歳、専業主婦
「いつも主人はそうなんです。よかれと思ってやるんですが、私に何も聞かないで…これ以上、振り回されるのはごめんなんです!」節子さんは真っ赤な顔で言います。
節子さんの夫・宏さんが地元企業の社長にのぼりつめたのは10年前。8年間汗を流したのですが、現在は社長を退き、相談役として週に2〜3回出社する程度。
同居していた宏さんの両親を5年前に看取り、自宅の住宅ローンは退職金で完済し、そして26歳の息子夫婦の間に産まれた2歳の孫を可愛がる…そんな悠々自適な老後生活を送っていた矢先、襲ってきたのがコロナ禍でした。
宏さんの会社は、3月初旬から在宅勤務へ移行。そのため、宏さんが会社へ顔を出すのは週に1回程度でした。ほとんどの時間を家に過ごし、ステイホームに徹していたのですが、暇を持て余した宏さんは何をしでかしたのでしょうか?
「外出するときは声をかけろ」
節子さんいわく、宏さんは少々、かたよった正義感の持ち主で「家族のため」という大義名分があれば、他人の迷惑をかえりみずに突き進むタイプ。
たとえば、日持ちする食料品を買い占めたり、見よう見まねで次亜塩素酸を作ろうとしたり、新型コロナの予防だと言い、うがい薬を飲んでみたり…。
宏さんが勝手なことを始めたのは、4月上旬。節子さんがどうしても許せなかったのは、「外出禁止の例外を認めないこと」でした。
宏さんは「外出するときは声をかけろ」と言うのです。節子さんが新型コロナに感染し、自分(宏さん)にうつされると困るという理由で。
節子さんはもともとボランティアに熱心なタイプ。募金運動に参加したり、被災地の野菜を購入したり、綺麗な衣服を寄付したり…だからこそ今回の新型コロナでも困っている人の役の立ちたいという一心でマスクを作ろうと考えていました。
運よく近所に手芸教室があり、マスクの作り方を教えてくれるそう。しかし、宏さんは猛反対。「参加者のなかに感染者が混ざっていたらどうするんだ!」と。
節子さんは宏さんが見張っているような気がして、食料品の買い出しなど必要最小限の用事以外は外出するのを控え、自宅に閉じこもるしかありませんでした。