みなさんこんにちは。露木行政書士事務所の露木幸彦です。
きょうは、完璧主義な妻と優柔不断で決断力のない夫の離婚事例についてお話しします(※登場人物はすべて仮名です)。
妻の堪忍袋の緒が切れた瞬間
- 登場人物
- 翔馬さん:31歳、会社員(年収400万円)
- 明子さん:34歳、会社員(年収350万円)、今回の相談者
- 皆実さん:7歳、夫妻の娘
明子さんは「ほどほどに」ができない頑固な性格。たとえば、「整理整頓もやるなら完璧に!」という感じで、何かに取り憑かれたかように片付けに没頭。その一方でモノを捨てるのが苦手なので、完璧主義と相まって人一倍時間がかかる…明子さんはそんな二面性を合わせ持っているように感じました。
「私も夫も束縛が大嫌いで自由を尊重してほしいタイプですが、一緒に出掛けるのも一苦労です!」
明子さんは、「待たされる」のが嫌なので出発の時間はきちんと決めたいし、時間通りに出発したいし、時間を守るのは当たり前という考え。
一方の翔馬さんは、「縛られる」のが嫌なので、出発の時間を押し付けられたくないし、決めた時間も絶対ではないという考え。外出先の予定が立て込んでいるわけではないので、「そこそこの時間に」出発すればいいと思ってるタイプです。
そうすると、こんなことが起こるのです。前日に明子さんが「10時ね!」と伝え、明子さんと娘が10時までに準備を済ませて玄関で待っているのに、翔馬さんは10時になっても支度が終わりません。翔馬さんは「ああ、悪い悪い」という感じで、待たされている明子さんの気持ちを考えず、のんびりと身支度に取り掛かるという有様。
翔馬さんは自分だけですが、明子さんは自分と娘二人分の準備を間に合わせたのに、予定通り出かけられないことに腹を立て、「自分のことしか考えていないんだから!」と心の底で怒りを爆発させたそうです。
これは明子さんの翔馬さんに対する不満の一例に過ぎません。自分の当たり前が相手の当たり前ではない…8年間の結婚生活において生じたボタンの掛け違いは数知れず。「話が通じない相手」の意見を尊重し、前向きに対応し、愛情を維持するのは無理があります。
「優柔不断で決断力がなく、私に言われないと何もできないところも全部嫌いです!だいたい声が小さいから、よく聞こえないし!」
明子さんはとうとう堪忍袋の緒が切れ、夫のことを「いないほうがいい相手」だと気づき、縁を切る方向へ舵を切ったのです。
有利に離婚するために…妻がとった行動
「もう嫌なんです!主人に訳のわからないことを言われて傷つくのは!」
明子さんはそう言いますが、話を聞く限り、夫は大雑把でいい加減で能天気なのんびり屋という印象。どう見ても難敵ではないので、出たとこ勝負でも何とかなりそう。
しかし、明子さんは心配性なので「夫が〇〇と言ってきたらどうしよう…」と無数の不安に苛まれており、十二分に用意周到に理論武装をしないと気が済まなかったのです。
まず娘の親権ですが、統計上、離婚全体のうち母親が親権を持つケースは約8割に達しているので(平成23年度、厚生労働省・全国母子世帯等調査結果報告より)、ただでさえ明子さんは有利な立場。
しかも、夫は学童の引取、宿題の補助、病院への送迎、学校行事への参加、病気の看病、習い事の管理など子育ての一切を明子さんに丸投げし、ワンオペ育児を強いていたのに、いまさら「俺が引き取る!」と口が裂けても言えないでしょう。
それでも慎重派の明子さんは、「念には念を入れて」という感じで想定問答集(夫の主張に対してどのように反論するのか)を用意しておいたのです。
たとえば、夫が「俺が学童に迎えに行けばいいんだろ!」と言い出したら、「仕事で出張のときはどうするの?」と言い返す。
「俺が病院に連れていけばいいんだろ!付き添って看病すればいいし」の場合は、「急病のときはどうするの?この前もインフルのときはうつされたくないって言って何もしなかったじゃない!うつされたらしばらく寝込むし、体調が悪いのに看病するのはどれだけ大変か。あれだけ仕事を休むのを嫌がっていたし、結婚してから娘のために休んだことはないのに! 」。
「学校の行事に会社を休んで参加するから大丈夫!」の場合は「行事がいくつかあるかわかっているの?1人で全部出席するなら、授業参観や運動会、文化祭、個人面談、引き渡し訓練だけでも月1回のぺースは休まないといけないのに…今年だって文化祭しか来なかったでしょ?」という具合に。
次に養育費ですが、明子さんの希望額は3万円。現在、夫は毎月の手取り18万円のうち、6万円しか家に入れておらず、残りの12万円は使い放題というわがままぶり。
しかも、離婚に応じれば明子さんへ渡す金額は6万円から3万円へ下がり、その分、小遣いが増える計算です。
もちろん、妻子の存在はプライスレスで離婚によって失うものはあまりにも大きいはず。しかし、夫には人生全体を長い目で見るほどの余裕はなく目先のことしか考えていないので「使える金が増えてラッキー」と軽いノリで二つ返事をする可能性は十分にありますが、当の明子さんは「そんなにうまくいくわけない!」と悲観的に考えていたようで…。
明子さんは裁判所のサイトを隈なく閲覧し、家庭裁判所が公表している養育費算定表を発見したのです。たとえば、夫の年収が400万円、妻が350万円、子1人(15歳以下)の場合、養育費は毎月3万円が妥当な金額だそうで、裁判所のお墨付きは心強いです。
二人は性格が真逆なので、明子さんの個人的な意見だと思われているうちは、いくら正論を言っても夫に信じてもらえないでしょう。しかし、法律の公式的な見解だとわかれば話は別です。いよいよ夫も観念して受け入れるしかないでしょう。