「空いてる電車で近くに座ってくる人がいてさ…」「それ私もこないだ経験した」
学生時代、このような会話が日常で繰り広げられていたことをいまでも覚えています。
痴漢が10代の学生に身近なものとして存在しているという事実は受け入れ難いとはいえ、毎日どこかで被害に遭う人たちがいる現状を抱えています。
痴漢は犯罪行為ですが、依存症とも捉えられる。そんな話をある本で読みました。加害者が何度も繰り返してしまう現実と、ほとんどが通報されない状況のふたつが重なり、さらに深刻な問題なのだと実感させられます。
満員電車で起きた被害
セーラー服を着た私は、満員電車に揺られて登校する日々を送っていました。
使っていた地下鉄の路線は、すべての駅において乗車ドアが片方のみ。開かないドアに寄りかかって本を読んだりスマホで映画を観て過ごしていたので、意外と誰にも邪魔されず快適だったのを覚えています。
ある日いつもの場所を確保し読書していると、誰かの腕が胸に当たった感触がしました。「まさか…」と顔を上げましたが、ちょうど人の出入りがあったタイミングだったので、偶然なのだと思いました。
そして読書に戻りしばらくすると、また腕が当たったのです。今後は当てた男性がはっきりわかりました。しかしその男性は私に背を向けて立っていたので、わざと触れているわけではないのかもしれないと思うようにしていました。
しかし、突然スマホを必死に打ち始めた男性。不思議に思い、後ろからそっとのぞいてみました。すると、掲示板のようなサイトで私のことが書かれていたのです。「JKに密着なう」と。投稿していることから考えるに、故意的に私の胸に触っていたのだと理解しました。
ですが、開くことがないドア側にいた私は身動きを取ることもできず、結局何もすることができませんでした。きっと加害者は何も言わない=許容しているのだと捉えていたことでしょう。そう考えることで、より怒りが込み上げてきます。
と同時に直接手で触られたわけでもなく、見方によっては当たってしまったとも捉えられるかもしれないと思い、痴漢だと判断することは難しかったです。
なによりその男性に何か言うことで、豹変したり殴られるかもしれないという恐怖のなかで、何もすることができませんでした。そしてその日もまた、学校で痴漢の話をするのでした。
グレーゾーンな痴漢
痴漢と聞くと、スカートの下から触られるような行為をイメージする人も多いかもしれません。ですが、私が体験したように、痴漢だと判断しにくい巧妙な手口を使って行為に及ぶ人もたくさんいます。
たとえば、股間を押し付ける、寝たふりをして寄りかかる、気づかれないように体液をかけるなど、グレーゾーンな迷惑行為が存在します。
なかには、一時期ニュースでも取り上げられていた「AirDrop痴漢(近くにいるiPhoneユーザー同士ならワイヤレスで画像や動画を共有できる機能「AirDrop」を使って、ひわいな画像などを送りつける行為)」という現代ならではの手口もあります。
しかし、“ガッツリ痴漢”ではないことから「被害妄想なのでは?」とか「あなたが自意識過剰なだけ」というような、被害者を責めるようなことを言う人もいるようです。
このように痴漢か判断しにくい状況で被害を受けた人は、なかなか被害を告白できなかったり、伝えたとしても心ない言葉をかけられる可能性があります。
それらに疑問を抱いたあるイラストレーター・河南好美さんが、“ガッツリ痴漢”ではない痴漢をする「グレーゾーンなおじさん」を描いたことにより、多くの反響がありました。
痴漢冤罪やら被害妄想やらのワードがチラチラ見えたので描いてたら止まらずこうなった。これくらい…と思われるかもだけど、ある意味ガッツリ痴漢以上の狂気を感じて怖いんだよ〜。
ちなみに全て東京よりはマシな満員電車であまり自由のきかない状況です。どうか炎上しませんように。 pic.twitter.com/aaAIts2T4q— 河南好美(かんなんよしみ) (@KannanYoshimi) May 13, 2017
投稿には「同じことをされたことがある」「やめてくださいと言っても、そういう人に限って逆ギレするから厄介だ」といった意見が寄せられていました。
そこで見えてきたのはグレーゾーンで痴漢行為をする人は、被害者から何か言われたときの言い訳を用意している、多くの人がどこからが痴漢なのかわからないことを知っているということです。