クィアマガジン「purple millennium」を運営し、LGBTQ当事者としての経験や考えを発信しているHonoka Yamasakiです。
同性愛者というだけで国や家族から命が狙われる。そんな愚行が存在するチェチェン共和国。そこでは「同性愛者は存在しない」とされ、見つかった当事者はひどい拷問を受け、死に至るケースも…。
同性愛が決して許されないチェチェンで、家族や仕事、生活を全て捨て、外国への逃亡を試みる当事者たち。ですが、国を跨いでもさらに悲劇が襲いかかる現実。
国家主導のゲイ狩りを映し出したドキュメンタリー映画『チェチェンへようこそーゲイの粛清ー』は、チェチェンの悲惨な内側を知ることとなるでしょう。
- 本記事は作品のネタバレ、一部残虐な内容を含みます。
ロシアの支配下、チェチェン共和国
ロシアによるウクライナ侵攻がニュースで報道されるいま、その渦中にいるチェチェンにも目を向ける必要があります。
ロシアの支配下にある国、チェチェンの指導者はラムザン・カディロフ。独裁者として、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領から指名されました。
クーリエ・ジャポンの記事によると、今年のロシア、ウクライナ侵攻においても、プーチン大統領を全面的に支持することを表明しています。
そしてロシアはウクライナに侵攻した後、暗殺リストを作成しているとの衝撃的なニュースを目にしました。
過去に標的となった人たちは、ロシアの行動に反対する人たちで、反体制派、ジャーナリストや反腐敗活動家、宗教的・民族的少数派やLGBTが含まれ、弱者を標的とした殺害や誘拐、拘束、拷問が作戦として計画されていたのです。
ほかにも、ロシア中部の都市エカテリンブルクにある印刷所が「BTSは同性愛者のプロバガンダである」「子どもたちの教育に悪い」と主張し、ポスターを含む関連グッズの印刷を拒否していたこともわかっています。
そんなロシアを支持するカディロフによるチェチェン。
カディロフの掲げた「血の浄化」政策では、国家主導で行われる「ゲイ狩り」により、多くの同性愛者たちが拷問を受け、殺害されています。社会から抹消されるか、死を目の前にして国外へ逃亡するかの究極の選択を迫られているのです。
チェチェンにいる同性愛者は、一体どのように過ごしているのか。それは想像を絶するものとなります。
恥辱とされる同性愛者たち
「叔父が私の性的指向を知ってしまって」
アーニャと呼ばれる女性の声で始まる本作。自分の性的指向が叔父に知られてしまった彼女。叔父から言われたのは、自分と寝なければ性的マイノリティであることを父親にバラすということでした。彼女の父親はチェチェン政府の高官であり、もしバレてしまうと殺される状況にいます。
映画を鑑賞する前、チェチェンでは同性愛者が殺害の対象にあることを前情報として調べていましたが、本当にこの国では同性愛者の居場所が与えられていないのだと実感しました。
そして「チェチェンへようこそ」というタイトルは、皮肉混じりでむしろ避けたくなるほどのものでした。
法律を見ると、チェチェンと密接な関係にあるロシアでは、2013年に「同性愛宣伝禁止法」が成立しています(参考記事)。
未成年者に対して伝統的家族観に反するとされる同性愛についての情報を宣伝することを禁じるもので、違反した者は最高で100万ルーブルの罰金や法人活動の90日間停止が科されます。さらに2020年、同性間の結婚は確定的に禁じられました。
チェチェンでも、ロシアと同様に同性愛者を国家として弾圧し、LGBTQに対して、拘留、拷問、処刑を罪に問わず、粛清を進めることを認めています。
先述したアーニャのように、性的マイノリティであることは社会だけでなく家族から「恥辱」「不名誉」と捉えられ、迫害の対象になってしまうのです。
実際に、チェチェンでは既に犠牲者や行方不明者が数百人にのぼりますが、開示された情報は実に少なく、LGBTQ弾圧に反抗した活動家などは表向きには活動できません。
そのため、秘密裏でネットワークや情報を駆使し、当事者救済に向けて取り組む必要があるのです。