いわゆる「ダメな男」にハマってしまう女性は多い。「ホストの彼に貢いで借金」「モラハラ気質の彼から離れることができない」といったように、「ダメ」な種類はいろいろある。
そして私の周りには、恋愛で避けるべきともいわれる「3B(バーテンダー、美容師、バンドマン」のひとつ、バンドマンが多い。彼らは総じて女性関係の評判が悪い。しかしなぜか異様にモテる。そこで、なぜ「ダメ男」にハマってしまうのか、その理由を解明するため彼らに直接恋愛事情をたずねてみることにした。
今回のインタヴュー対象は、現在下北沢のライヴハウスを中心に活動するロックバンド、CHERRY PILOT(仮)のギターヴォーカル・脇殴誉(わきなぐり・ほまれ)。
彼は女癖が悪く、借りた金も返さず、各種公共料金を滞納し、そのくせ酒と煙草をいっちょ前に嗜み、MacBookを所持している。しかし彼も例に違わず、とにかくモテにモテている。
取材場所のドトールに45分遅れでやってきた脇殴は悪びれもせず、「電車が混んでた」というと、ミラノサンドCとアイス沖縄黒糖ラテをオーダーしたのち、快くインタヴューに応じてくれた。
好感度0から巻き返すのが醍醐味
「まず最初に言っておくけど、オレはクズじゃないよ。クズじゃないと思う。クズ気味。せいぜい県大会ベスト8とかそのぐらいのレベル」
そう前置きした脇殴だったが、直後に発せられたエピソードは予想をはるかに上回るものだった。
「むかし、彼女の誕生日プレゼントを浮気相手と一緒に買いに行ったことあるよ。でも結局その彼女にはフラれたんで、その子と付き合うことにしたんだよね。まぁKちゃんとでもしておこうかな」
何がしておこうかな、だ。顔をしかめた私にはまるで興味がないかのように、ミラノサンドCを頬張りながら脇殴は話を続けた。
「で、Kちゃんの誕生日のまえにさぁ、プレゼント用に後輩から商品券3万円手に入れてたんだよね。でもその商品券、ぜんぶ機材買うのに使っちゃって。“金ないからプレゼント買えないわ”って伝えたらKちゃんマジでブチギレたの。“前の彼女の誕プレ買うときはすっごい楽しそうに選んでたクセに!”とか言って。まぁ結局、ベッドで仲直りしたんだけど」
シンプルに「最低」の一言しかないが、あまりにもはつらつと話を続ける姿からかんがみて、少なくとも彼の音楽に対する情熱は本物のようだ。
「Kちゃんから金は超借りたね。ていうか今まで付き合った人で金借りなかったことない。あとね、Kちゃんのお父さんは昔バンドやってたらしいんだけど、結構高いギター持っててさ、それは借りパクした。なんやかんやで2年ぐらいでKちゃんにはフラれたんだけど、別れるときにドサクサにまぎれてプレステ4も貰おうとしたらそれはダメだったね」
そうして脇殴は肩をすくめて笑いながら、恋愛の醍醐味について語った。
「オレ、クリスマスとかバレンタインとかそういう行事系のヤツ、大体友達と過ごしちゃうんだよね。そういうの繰り返してると大体むこうが愛想尽かして、“こいつ単なるクズじゃん”って見放されそうになんだけど、その瞬間がいちばん盛り上がるよね。好感度ゼロの状態から巻き返すのが醍醐味っていうかさ」
そう、バンドマンはそもそも「付き合ってはいけない3B」に選ばれるだけあって、女性からの評価は最初からかなり厳しい。それでいてステージに立つ姿は格好よく、憧憬を集めやすい。好感度のアッペンダウンが激しいからこそ、心がその急加速急降下急上昇についていけず、いつのまにかのめりこんでしまうのかもしれない。
今はキャバ嬢に飼われる日々
こめかみに疼痛が走るのを感じながら、脇殴の現在の恋愛状況について伺ってみるとこのような答えが返ってきた。
「最近はね、高級キャバ嬢に飼われてる。こないだ先輩に連れられて7〜8万ぐらいする超高いキャバクラ行ったんだけど、女の子に“オレマジで金ないから先輩に付いた方がいいよ”って言ったら、その子が“私、ヒモ飼ってみたかったんだよね”って言ってきてさー。いまはその子に飼われてる状態だね。でさ、その子、出勤前にたっかい美容院行って髪セットすんだけど、毎回オレそこについてって、店の前で待ってんのね。そしたら他にも、キャバ嬢に飼われてるであろう男たちがそこに立ってんだよね。コンビニの前の犬状態。最近は顔見知りになってきて、軽く会釈とかしたりするよ」
頭痛は激しくなるばかりだった。最後に、脇殴の恋愛観を聞いてみると、彼は屈託のない笑みを浮かべながらこう言った。
「別にオレさ、付き合いたくて付き合ってるワケじゃないんだよね。毎回全部成り行き。もっと好きな人ができるかもしれないって思いながら付き合ってる、いっつも」
取材は小一時間ほどで終了し、我々は駅で別れた。当たり前のように、その場で私から徴収した小銭で改札を突破する彼。堂々と駅を歩く彼の姿を見て振り向いた女性は1人ではない。
彼は終始、自身の行動をまるで悪びれるようすもなく、まるで夕食の献立を伝えるかのように笑顔で語っている姿が印象的だった。
圧巻たる「堂々さ」となぜだか憎めない「少年性」。それが彼が女性を虜にしてやまない理由の1つなのかもしれない。
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