好きで結婚した配偶者でも、一緒にいられない理由があれば離婚を選択するのは当然のこと。
ですが、夫に嫌気が差して覚悟を決めて別離を選んだはずなのに、当の夫の変化を見続けるうちにまた気持ちが揺らいでしまうのは、なぜなのでしょうか。
気持ちを完全に断つことが難しいのは、人としての情を捨てられないからで、その自分もまた正しいのかもしれません。
ある女性が悩み続けた元夫との関係はどんなものだったのか、ご紹介します。
浮気されて離婚したのに…
由紀さん(仮名/40歳)は、連れ添って12年になる夫と半年前に離婚しました。
理由は夫の浮気で、会社に出入りする保険会社の女性に熱を上げる夫を知ったときは「ショックで目の前が真っ暗になった」と振り返ります。
離婚を決意したのは、夫がその自分について「これくらい、男なら誰でもある」と開き直り謝罪を拒んだからで、離婚を切り出すと反対されたため、家庭裁判所に離婚調停を申し立てました。
夫との間にはひとり息子がおり、調停の開始と同時に子を連れて家を出た由紀さんは、いまはアパートでお子さんとふたり暮らしをしています。
調停は、夫の抵抗が強く最初の3カ月はまったく話が進まなかったそうです。
不貞行為と判断される証拠を由紀さんは掴んでおらず、浮気の証明はLINEのやり取りとレストランのレシートくらいしかなかったため、「この程度の浮気なら妻は許すべき」という主張を夫はやめませんでした。
それが変わってきたのは、調停委員から「自分なら、よその男に好きだと言いながら食事代を全額負担する奥さんを見て許せるのですか」と言われてからだそうで、“自分は許してもらう側”と言う自覚を持った夫の態度は軟化していき、最終的に1年で離婚に同意しました。
調停で初めて夫からの謝罪を由紀さんは伝えられましたが、「遅すぎるし、同居に戻ればまた浮気をする可能性は捨てられない」と、離婚の意思は変わりませんでした。
親権も取り生活が安定してきた現在の由紀さんが抱えている問題は、離婚し“元夫”となったこの男性との接触にありました。
「ひとりの男性」として自分の前に立つ元夫
「離婚したことは、いまでも後悔していません。養育費は取り決め通りに払われているし息子との面会交流も順調で、こちらの生活に協力してくれることには、元夫に感謝しています」
落ち着きなく視線を動かしながらそう話す由紀さんは、当時の自分がどれほど怒りや虚しさを堪えながら調停の場に臨んでいたか、それを突っぱね続けた元夫の態度への怒りは消えないと言いました。
「でも、離婚に同意したときには、『妻の気持ちを受け入れる。自分が悪かった』とはっきり調停委員に言ったそうで、財産分与も養育費の決定も、裁判所の提案に従っていました。私はもう、長かった調停がやっと終わることで気が抜けてしまって、そんな夫に感謝すらしましたね」
最後には特に大きな衝突もなく成立した離婚で、その後の夫が穏やかに接してくれることに、由紀さんは安心していました。
月に2回の面会交流は、最初こそ待ち合わせ場所を決めてそこに由紀さんがお子さんを連れていっていましたが、2カ月ほど経つと「俺がそっちまで迎えに行くよ」と元夫が申し出て、時間も守ってくれることから由紀さんはとても助かっています。
調停で振り込みと決めた養育費を、「銀行に行くのが面倒だから」と手渡しを求めるようになり、面会交流で顔を合わせると「よかったら3人で食事にでも行かないか」と気さくに誘ってくれるそうです。
「バツイチの友達から、『それって何か下心があるんじゃない?あなたと体の関係を持ちたいとか、養育費をねぎるとか、何を言い出すかわからないわよ』と言われました。私もその警戒はしていて、絶対にふたりきりでは会わないしLINEでもなるべく子どもの話しかしないように気をつけていたのですが…」
元夫ではあるけれど、離婚したのであれば他人であり、ひとりの男性。
結婚していたころとはまた違う優しさに触れ続けて、由紀さんの心は揺れ動きました。