オンナの生きざま系のドラマにめっぽう弱い、塩辛いか乃です。
絶賛どハマり中のNHK連続テレビ小説『虎に翼』、今月もアツイ展開でした。
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- 【虎に翼/5月】アップデートされない女という生き物への見方。それでも…
今回のメインは「家庭裁判所設立」と「戦災孤児」の話。
家庭裁判所が戦後にできたものということさえ知らなかったし、少年裁判所と合併したことも知らずで、とても興味深く見ました。
法律とか裁判って、あまり身近に感じることが少ないですよね。
でも家庭裁判所って自分の生活に一番身近で、たとえば離婚だの家のなかのもめごとはだいたい家庭裁判所の管轄。
わたし自身も、実は何度か家庭裁判所にお世話になっています。
自分の戸籍がなぜか父の前妻の子として入っており、結婚の際に戸籍を直すべく家庭裁判所に駆け込んで相談に乗ってもらったり、父が借金を残して亡くなった際にも、相続放棄の手続きをしたり。
特に戸籍の件は弁護士に頼むとかなりお金もかかるでしょうし、なんとか自分で手続したいと思って家庭裁判所に行きましたが、手取り足取り教えてくださり、弁護士など代理人を立てずに自力で家庭裁判所の申し立てをすることができました。
裁判所というと悪事を裁くイメージがありますが、本当に親身になって相談に乗ってもらい、とても感謝してます。
そして、この家庭裁判所の設立の経緯は、戦後の戦災孤児となった子どもたちや、苦境に立たされた女性たちのために作られたものだということ。
そしてそれは悪事を裁くためのものではなく「愛の裁判所」であるということ。
そういったことが濃く描かれていて、そのおかげでわたしの問題も解決することができたのだなと思うと、先人の偉業に感謝せざるを得ません。
人間、生きてこそ。
今月は、特に6月14日の回が印象的でした。
家庭裁判所と少年裁判所の合併で、大もめに揉めていたのを乗り越えて、なんとか家庭裁判所が設立された日。
そこの場に登場したのはチョコレートの絵。これは大学の同窓、花岡さんの奥さまが描かれたもの。
この花岡さんは優秀な裁判官だったにもかかわらず、あまりに真面目な性分で、合法ではない闇市の配給を口にするわけにはいかないと言って餓死してしまったのですが…。
奥さまが描いたチョコレートの絵は、主人公・寅子が花岡に最後に会ったときにあげたチョコレート。
この絵を見つめながら、寅子の上司である最高裁判所家庭局長の多岐川さんはこう語りました。
「人間、生きてこそだ。国や法、人間が定めたものはあっという間にひっくり返る。ひっくり返るもんのために死んじゃならんのだ。法律っちゅーもんは縛られて、死ぬためにあるもんじゃない。人が、幸せになるためにあるのだ。幸せになることを諦めた時点で矛盾が生じる。彼がどんなに立派だろうが、法を司る我々は彼の死を非難して、怒り続けねばならん。その戒めにこの絵を飾るんだ」
いつも本気なんだかなんだかわからんキャラの多岐川さんが熱弁をふるう瞬間に、ハッとさせられます。
彼には過去がありました。
彼は自身が死刑宣告の判決を下した凶悪事件の裁判で、実際にその死刑執行を見に行ったそう。それ以来、凶悪事件に関わることがができなくなり、それを逃げた自分を責めていたのです。
だけどその後、子どもたちと触れ合うなかで「もう逃げなくて済むように、子どもたちを幸せにするために、幸せの種をまくために、人生を使おう」と決意。
いつもいびきをかいて寝ている多岐川さんだけど、彼のなかにも秘めた思いがあってものすごく熱い人なんだとわかって、もうその熱い想いに触れてわたしもウルウル。
家庭裁判所は「愛の裁判所だ!」と豪語していた多岐川さん。
はじめは「変な人!」と思っていたけれど、その想いに触れ、まさに「愛の裁判所」設立にふさわしい方が家庭裁判所を設置してくれ、わたしたちはその恩恵にあずかっているのだな、としみじみ思いました。
空襲が来るとほら穴に入り、布団を被る。戦争を経験した母の悲惨な話
こうして無事家庭裁判所がスタートしたものの、課題は山積み。
とにかく戦災孤児の多さにはどこから手を付けてよいかわからない状態だったようです。
そりゃそうですよね。ほとんどの男性、いや若い学生までもが戦争にとられ、爆撃の雨を受け、残されたのは女性と子ども。
家族全員空襲でやられ、子どもだけ生き残ってしまったケースだって、それはそれは多かった。
救ってあげたくても、自分の生活でさえ成り立たないのでどうしようもない。
配給は不足。闇市にはお金がいる。国民がみな飢えていたとき、一番の被害者は、やはり自力で稼ぐ力のない子ども。
当時は女性も仕事を持つ範囲が限られていたので、もちろんたくさんの女性も路頭に迷っていました。
子どもたちは生きるために仕方なく盗みをはたらき、女性たちは生きるためにアメリカ将校とお付き合いをする。
家族を亡くしてなんとか生きるための策を選ばざるを得ないのに、社会からはお荷物どころか毛嫌いされる。
戦争が残すものは、やっぱり悲惨すぎる。
ちなみにうちの母は、戦争体験者です。1938年生まれで、神戸生まれ。実家は電気店をやっていたそうです。
戦争が始まった当時は3歳。終戦時で7歳。この年齢でも、母の戦争の記憶は鮮明です。
わたしが小さいころから、何度も戦争体験談を聞かされました。
防空壕といってもただのほら穴。空襲が来るとサイレンと共に赤旗が立てられ、そのほら穴に家族全員入り、うえに布団をかぶせ「当たりませんように」と震えながら祈るだけ。当たるかどうかは運でしかない状態だったそうです。
B29の爆撃が終わり、外に出るとあたり一面焼野原。お隣さんやお向かいさんがやられてしまったなんてことも、当然目の当たりにしていたそう。
うちの母、でっかいハエも手でひっぱたくんですが、そりゃあそんな小さいころに黒こげの死体を乗り越えて生き抜いた人からしたら、ハエなんて屁でもないでしょう。
その後、このままでは危ないと母は兄弟と一緒に徳島に疎開しましたが、当時はどこも食糧難。幼い子どもでしたが、それはそれは厄介者扱いされたようです。
その後すぐに神戸の家が焼け、両親も疎開してきて一緒に暮らしたようですが、その貧しさたるや想像を絶するものでした。
その日食べるお米にも困り、お弁当はほぼ麦。9割麦飯のお弁当箱の一番上にだけ薄く白米を敷いて持っていきますが、いじわるな子にお弁当に唾を吐きかけられて取っ組み合いになることもあったとか。
お米も味噌もしょうゆも尽きたときは、子どもだと断りにくいからと母が隣近所に「お米貸してください」と言いに行っていたのだとか。
兄も姉も嫌がってやらなかったけれど、母はお母さんのために頑張って借りに行ったと言っていました。
徳島の田舎だったので畑や木に果物がなっていれば、そろりそろりと拝借し、お母さんに持って帰ったと。
大きなスイカを抱えて走ったという武勇伝も何度も聞かされました。
学校なんて行ってる場合ではなく、学校を休んで山に薪を拾いに行くときには、子どもたちの通学時間を待ってひっそりと山に入ったそう。
薪をてんこもりかついだら日がとっぷり暮れて迷子になり、転がれば降りられるだろうと薪ごと転げ落ちてふもとまで行ったという武勇伝も何度も聞きました。
母は戦災孤児にはなりませんでしたが、運よく生き残ってもこんな状態。
子どもだけで残されたら、そりゃあ飢えて死ぬか、何か奪ってでも生き延びるかの2択を迫られるでしょう。
だけど、盗みは当然商売人には悩みの種になります。治安も悪くなる。すると世の中的には排除の方向に動いてしまうわけで。
きっと全員救うどころか、ほとんどは辛い思いをしたままだったと思うけれど『虎に翼』を通じて、そのなかでもなんとか救いの手を差し伸べようと行政が行動を起こしてくれていたことを知って、少しだけホッとしました。
やさしさと人柄があふれた回に、涙。
そしてここでは救いきれない子どもの代表として、道男が登場します。
飢える戦災孤児たちの窃盗リーダーのような形で寅子と関わりますが、ひょんなことから寅子の家で預かるはめに。
そうはいってもいままで戦災孤児として厄介者扱いされてきたわけなので、急に素直にはなれないのは想定内。
大人を、世間を信じられなくなっている道男が心を開くまでにはなかなかの試練があって、道男もヤケを起こしたりと一筋縄ではいかず、結局道男は家を出てしまう。
だけどそんなタイミングで寅子の母・はるが病に倒れ、最後に道男に会いたいと願う。
寅子は母の願いをかなえたいと道男を引き戻しに行くのだけど、心を閉ざした道男。
けれど寅子はあきらめず「人は失敗する。でも一度失敗したくらいでは、まっとうな大人は子どもの手を離さない。離せないのよ」と懇願して引っ張り出す。
なんとか連れてきた道男に、はるは「よくここまで一人で生きてきたね」と声をかけて抱きしめました。もうわたしここですでに涙腺崩壊。
「ばあちゃんが死んじゃったら俺またひとりだよ」という道男に、「それは道男しだい。これからは、人を突っぱねてばかりいちゃダメよ」と優しく諭します。
やさぐれてた自分をこんなにまっすぐに受け入れてくれたら、そりゃあ心を入れ替えようと思いますよね。
はるさんのやさしさと人柄があふれた回、そのままはるさんは旅立ってしまったけれど、印象的な回でした。
こんないい話、そうそうないとは思うけれど、もし少しでも多くの人がこんな人と出会えていたら、その子の人生は大きく変わっていただろうにと思うし、もうこんなことが起こってはいけないなと思います。
戦争ではなくたって、ただでさえ飢えている子、ネグレクトされている子、しんどい思いをしている子はたくさんいるというのに。
戦争や法律だけでなく、人のあたたかさとかまっすぐさもドラマに練りこまれているのがこの『虎に翼』の素敵な部分だなと思います。
さて、ドラマはまだまだ中盤。翌月はどんな展開になるのか、引き続きウォッチしていきます。
NHKの公式YouTubeではダイジェストを配信していて、いまからでも追いかけられるので、興味のある方はぜひ見てみてくださいね。
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