ホワイトデーのお返しを探しに
約束したのはホワイトデーの前日。地下鉄に乗って、私たちは街に繰り出した。このとき和也の私服を初めて見て、とてもドキドキした記憶がある。確かピンクのチェックシャツに、色の濃いデニム。「ピンクが似合う男子はかっこいい」と、このとき強く思った。
私は何を着て行ったかよく覚えていないけど…少しでも可愛いと思われたくて、お気に入りのパンプスを履いて行ったのは記憶に残っている。
「アクセサリーとか、どうかな」
ヨシキは陳列されたアクセサリーを眺めて真剣に考えていた。
「何人にお返しするの?」
「3人だよ」
ネックレスや指輪、イヤリングを眺めながらそんな会話をする。和也も反対側のディスプレイを眺めていた。
「あ、私これ好きだな」
「どれ?」
後ろから急に覗いてきた和也にびっくりしながら、心臓の音が聞こえないよう顔を背ける。
「可愛いじゃん、似合いそう」
「そうかな?」
突然言われた本命の彼からの「可愛い」という言葉は、何年経っても耳に残っているものだ。いまでもたまに思い出しては「すごく好きだったんだな」とあのころの自分を懐かしむ。
「ネックレスかぁ…義理チョコのお返しだからな」
ヨシキは私がピックアップしたアクセサリーを見て首を傾げている。どうもしっくりこない様子だ。
「まぁそうだよね。私もアクセサリーをもらうなら、本命の彼からがいいな」
結局ヨシキは、ハンカチとクッキー缶のセットを買っていた。「来てくれたお礼」として、私もなぜだかお返しをもらった。いまでもこのときのハンカチは残っている。
和也がトイレに行っている間、ヨシキにこんな話をされた。
「そういえば和也にチョコ渡したんだって?」
「うん、聞いたの?」
「メール来たよ、もらった!って。でも義理チョコだったって悲しんでたぞ。なんでそんなこといったんだよ」
悲しんでたの?それって、義理チョコじゃないほうがよかったってことなのかな…?