帰り道の置き土産
「あ、やべ、兄ちゃんから鬼電きてるわ。じゃあきょうはここで解散ってことで!」
ヨシキは携帯をパッと眺めて慌てだす。もう地下鉄に乗ろうとしていたのに、そのまま反対側のホームに走って行ってしまった。
「あいつ、兄貴となかよしだよな。しょっちゅう呼ばれて飯食いに行ってるわ」
「そうみたいだね。ご馳走してくれるから嬉しいっていってたけど…」
「なかよし兄弟って羨ましいわ。俺、妹も弟も年離れてるから飯食いに行けるのはまだまだ先だな」
「3人兄弟だったの?知らなかった…」
急にふたりきりになってしまった私たち。和也は自分のことをたくさん話してくれた。「沈黙したら気まずいな」なんて心配をよそに、私たちの話は盛り上がった。この時間がずっと続けばいいのに。地下鉄はそれでも止まらない。ついに私が降りる駅についてしまった。
「じゃあ、私ここだから」
「おう」
電車を降りて振り向くと、なぜか和也も一緒に降りていた。
「え?ここじゃないよね?」
「うん、いや…もうちょっと送るよ」
なんだか和也も顔が赤くなっているような気がして、私はまた顔を背けた。和也も、私と一緒にいたいと思ってくれていたのかもしれない。地上に出て歩いていると、不意に和也が鞄の中から小さな袋を取り出した。
「これ、バレンタインのお返し」
「えっ」
「あした、ホワイトデーだから」
「あ、ありがとう」
なかを開けると、さっきお店で見ていたアクセサリーが入っていた。私が「これ好きだな」と口にしたネックレスだ。
「これ、さっきの!」
「うん…もし俺が、本命の彼じゃなかったらゴメンなんだけどさ」
あぁ、そうか。これは「俺が、本命の彼であってほしい」っていう彼からのメッセージなのだ。彼なりの告白の仕方なのかもしれない。だったら私が返す言葉は
「あの、私」
「あれ?和也じゃん!」
そのとき声をかけてきたのは、同じ学校の女子だった。
「もしかしてデート?ごめん、邪魔しちゃった?」
女子は驚いたように私たちふたりを指差す。
「ち、違うよ!さっきまでみんなで遊んでて、近くまで送ってくれたの!和也、送ってくれてありがとう!またあしたね!」
急に恥ずかしくなって、私は家に向かって走り出した。本当は彼がなんていうのか気になったけれど、もしかしたら「そうだよ、デートだよ」っていってくれるんじゃないかって期待したけれど、それよりも先に私の口から言葉が出てしまったのだ。