彼女の選択からみえる日本の現実
女性の不妊を導く原因として晩婚化や高齢出産化、現代女性の乱れた生活習慣などがあげられる。彼女以外にも不妊に悩むお客様は何人か担当しているのだが、それぞれに共通して「東京で、自立した生活を送り、ひたすら仕事を頑張ってきた」ということが言えるのだった。
文章にしたらたった一行。そんな簡単に思えることが難しい。小さいころテレビに映っていた“かっこいい女の人”は教えてくれなかった苦い思いをしながら女性たちは生きている。
彼女の仕事における出来事には、日本の女性の現実がすべて詰まっていた。
男性ばかりで作られた業界。性別による物理的な能力の差があるわけではないのに、いまだに女性の就業率が低いという日本の根本的に改善できない問題。女性の幸せとキャリアアップという自己実現が両立できない現実。彼女の話のなかには出てこなかったが、ここに収入格差という問題があったかもしれない。
男女の格差。女性の多くが感じていることのひとつとして、仕事面と妊娠出産の両立、言い換えれば自己実現欲求と人間生活における幸福の追求の両立ができないことがあげられるのではないだろうか。
男女格差。もし、女性だけの世界で生きていたら?
そんな男女の格差は、性別が多数ある世界で生きているから存在するものなのだろうか。
私の働いている業界は、女性が大半を占めている。リラクゼーションサロンやエステなど、女性ならではの仕事だと思われることが多い(ちなみに男性セラピストというのも当然存在する)。
女性だけの社会。先程の女性を含め、男女の格差は男性と女性という異なる性別が存在するからこそ起こり得ることだとされることが多いが、女性だけの社会で生きることで感じこともある。
セラピストという仕事はお客様の身体や精神を癒すこと。お客様をお迎えし、お茶を出して身体を触りマッサージをする。施術が終われば寝具を取り替え、洗濯をする。洗濯物を回し終わればシーツやタオルを干し、オイルを拭き取るホットタオルを畳む。掃除機をかけ、また笑顔でお客様をお迎えする。
それが「女性ならでは」の仕事。そう、私は女性が大多数を占める世界で女性のジェンダーロールを生きている。いわば、自分を女性たらしめて仕事をしているということなのだ。
この仕事をしていると、常に自分は女性だということを思い知らされながら働いているような気がする。「女性に適している仕事は癒しを提供したり洗濯物を回したり、掃除をしたり、とびきりの笑顔を作ったりすることだ」と言われているような気がするのだ。
そう考えると男女の格差は他人からの影響、男性から女性という一方通行のものから出来上がるものだけではないのではないか。