まるで考え方が違う、平成のあの子
「ひどくない?昭和だよ、昭和。昭和なんてたったふたつ前の時代なのにさ、すっごい昔の人みたいじゃない?いま生きてる大人のほとんどは昭和生まれだっていうのにさ」
「ははは。でもそれさ、本当に梨沙のことなの?なんか、ほかの会話だったんじゃなくて?」
尊は、冷蔵庫から炭酸水を取り出しごくごくと飲むと、ソファに座る梨沙の隣に腰掛けた。
「いや、明らかに私のことだよ。だって、私が発言した直後に、そのメッセージが飛んでたんだから」
「まぁでもさ、上司とか先輩に対してムカつくこととか、納得いかないなーってこととか、若いときのほうがよくあったよな。影で言うってことは、気を遣われてるってことだよ」
「でも、やっぱショックだよ」
「ショックなのはわかる。でも、俺もよく愚痴ってたな、同期に。まぁ、いまもだけど」
夫の尊とは、結婚して15年。いろんな期間…特に子育てのドタバタを乗り越えて、いまや「戦友」のようになりつつある。
大学時代の同級生ということもあって歳も同じだし、付き合いも長いしで、わりと何でも話し合える仲だ。息子の陸は中学1年生に、娘の百合は小学4年生になり、子育てが落ち着いてきて、子ども子ども、にならなくなったこともあるとは思う。
「歳が20近くも離れてたらさ、もう、考え方がまるっきり違う。理解不能って感じ」梨沙はため息をついた。
「まぁ、俺たちが就職したばっかのときといまじゃ、世の中が全然違うもんなぁ。やれリモートだ、飲み会なしだ、副業だとかさ。それはそれで、いいことも多いんだろうけど」
「でもさ、たまに顔を合わせて話したいって思うのって、そんなに無駄なことなのかな。いくらパソコンでもコミュニケーションが取れる時代だとしても、ロボットじゃないんだから」
「そういう時間があったら、なんか自分の好きなことに使いたいって感じなんじゃない?」
「なんか、めっちゃ、割り切ってるよね」
「まあ、近くの席に座ってる怖い上司の機嫌伺ってヒヤヒヤしたり、先輩に付き合って仕事の帰りが遅くなったり、気乗りしない飲みに誘われて断れないとかそういう経験してない子も多いしね。いまの子たちは」
「たしかに。全部、リモートで完結しちゃうような仕事もあるしね」
そう。時代は完全に変わった。特にここ最近はどんどん無駄が省かれていって、無意味(だとされること)なことはひたすら削るのがよし、とされてきている。
合理的に仕事を進めることはよいことだが、果たしていまの風潮が100%いいことばかりなのかと思うと、そうでもない気がしてならないのだ。
自分の考えって、そんなに「時代遅れ」なの?梨沙は、なんだかどっと疲れを感じた。