世の中の多くの人は、大人になると「結婚」という選択肢を選びとり、家庭を築いていく。独身者は年齢を重ねるごとに少数派となっていき、どこかで、少なからず「生きづらさ」を感じざるを得ないところは、どうしてもある。
一方で、結婚というのは「紙切れ一枚の契約」とはいえそう簡単ではなく、大きな決断であることに変わりはない。人生に一大変化をおよぼすものなのだから、何も変わらないままでは、やっぱりいられないのだ。
女性が結婚しない選択をしたとき、果たしてそこから、どんな人生が待ち受けているのだろう。ただただ、前途多難なのか。寂しさやしんどさを感じる日々が待つだけなのだろうか。
今回のストーリーは「25歳、結婚か転職か。「独立」を選んだ私の10年後」の、さらに続きだ。30歳を過ぎて会社を辞め、夢だった自分の店をオープンさせ、ひとり店を営んできた真依子。しかし40歳がじわりと近づき、急激に結婚への想いが強くなっていく。結婚できそうな相手と出会うが、そこにはある条件が…。
それから4年後、結婚を選ばなかった真依子と、結婚した真依子。少し遅れて、いわゆる「女の幸せ」といわれてきたものを取ったときと、「そうではないもの」を取ったときでは、どんなふうに人生は変わるのだろう。少し風変わりな道を選んだ彼女の人生のワンシーンを、覗いてみよう。
- afterwards.3おひとりさまの真依子「妻でも母でもないオンナ」(このまま続きをお読みください)
- afterwards.4 結婚し、移住した真依子「まだ、夢の途中」
38歳で結婚した真依子のストーリーはこちら
結婚のチャンスと引き換えに
「移住?それ、本気で言ってる?」
「うん。本気」
本間俊二の想いを聞いたのは付き合いはじめる少し前、何度かふたりで会って、お互いの気持ちを確認している段階だった。
真依子は半年ほど前から結婚相談所に登録して「婚活」を開始した。何人かの男性と会ったが、結果は芳しくない。38歳、仕事は相変わらず文房具屋兼雑貨屋の「pleasant」の店主。「40歳手前、自営業」という自分の属性は婚活という市場では決して戦闘能力が高いほうではないのだということを、いやというほど感じる。
そんなとき、結婚相談所を通じて会うことになったのが俊二だった。32歳で、レストランのキッチンで働いている。調理師の学校を出て飲食店を転々としながら、20代のときからお金をためては、国内外へとひとり気ままに旅行する生活をおくっていたが「そろそろ腰を据えて暮らしたい」と考えて、結婚相談所に登録したのだという。
俊二とは価値観も近く、一緒にいても大きなストレスを感じることも少なく、居心地のよさを感じる。経済的な面でのスペックはそう高くはないが、いまの年齢で、自分を好きだと言ってくれて、結婚を考えてくれる年下の男性。もしかしたら、奇跡に近いんじゃないか。
それに子どものことも考えたら、やっぱり、できるだけ早く決めたほうがいい。
もうすぐ40歳という自分の年齢。そして、少し行き詰まってきている仕事。店の売上は相変わらず細々としていて、今後、いま以上に発展していく見込みはなかなか見えてこなかった。
「東京で働き続ける選択は、ないの?」
「いまの職場は個人経営のレストランだから、ずっと働き続けられるかわからないし。やっぱり結婚するからには安定した仕事に就いて、家族を守りたい。でも、デスクワークはやったことがないし、続かないと思うんだ」
そこから、俊二は会うたびに移住について話した。下調べはかなりしているようで、候補地も複数ある。仕事のめども立っているという。でも、移住するということは真依子にとって、自分の店を手放すこととイコールになる。
ふたりのあいだで移住の話が平行線をたどる日々のなか、真依子はふと思った。
もしこの機会をのがしたら、自分はいよいよ、一生「独り身」かもしれない。
ものごとにおける「チャンス」というのは、突然現れていついなくなるかわからない、不安定で予測不可能な乗り物のようなものだと真依子は考える。そこに思い切って飛び乗ったとき、そこからこぼれ落ちるものや置いてこなければいけないものは、必ずあるのだとも。
よし、決めた。真依子は、とうとう決意を固めた。
そして、4年後…。
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