「いまのぼく」があるのは…
東京に戻ってから通い始めた心療内科で改めてくだったぼくの診断名は、「うつ病・境界性パーソナリティ障害・PTSD」だった。この境界性パーソナリティ障害に困り、最初の大学で孤立してしまったのではとカウンセラーさんが紐解いてくれたおかげで、ぼくは対人関係への自信もちょっとだけ回復させることができた。
現在、ぼくは抗うつ剤なしの生活を目指し、時間をかけて薬を減らしている。多いときは毎日10錠ほど飲んでいたそれは、いまは半分以下にまで減った。頓服(とんぷく)はもう処方されておらず、9年近く飲み続けた末の離脱症状が起こらないよう慎重に減薬を行なっている最中だ。
あの親父のもとに生まれたぼくは、自分が将来だれかと事実上でも法律上でも「結婚」するなんて、幸せな家庭を築くことができるなんて、想像すらしていなかった。性別問わず、だれかと家族になることそのものを怖れていたのだ。
でも、いまぼくがこうあるのは、間違いなく彼のおかげだ。彼がぼくをしっかりと抱き締め、放り出すことなく、ともに嵐をくぐり抜けてくれたからだ。
パートナーが、彼でよかった。彼でなければ、穏やかな眠りにつく日々を永遠に獲得できなかった。結婚3周年・交際7周年を迎えたいま、そのことを心から幸福に想う。大袈裟でなくぼくにとって、夫は命の恩人なのだ。
ところであの鍵付き包丁ケースは、いまもまだ有効活用されている。今年の2月に不摂生が原因で急性虫垂炎にかかり、深夜に救急車で連れて行かれた。そのぼくの健康管理を目的に、深夜に隠れて食べないようお菓子をそこに隠されるハメになってしまったのだ。
小言は多いし口うるさいけれど、彼に叱られるのは嫌いじゃない。そこに誠実な愛情がひたひたと満ちているのを、感じることができるから。
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