クィアマガジン「purple millennium」を運営し、LGBTQ当事者としての経験や考えを発信しているHonoka Yamasakiです。
誰にもカミングアウト(友人や家族に自らのセクシュアリティを伝えること)をする、しないという選択肢があります。
LGBTQを自認する人のなかには、公言したことで楽になったという人も、逆に隠しておきたいという人もいます。
ですが、本当の自分をさらけ出すことがカミングアウトと等しく捉えられがちな世の中では、公言しないことを選択した人に対して、かわいそうだと感じる傾向にあるのは、大変興味深いものです。
さまざまな環境があるなかで、カミングアウトする幸せとカミングアウトしない幸せは、個人によってさまざまにあります。
Coming out of closet
現在、日本語でいう「カミングアウト」は英語の“come out”に同義するもので、当事者が性的少数者であることを公に打ち明けることをいいます。
ですが「come out」は、ゲイコミュニティのなかで使われていた言葉であり、意味も現在とは全く違うものでした。
もともと「come out」は、アメリカの都市で開催されていた「ボール(ball)」と呼ばれるパーティーイベントに出演するゲイ男性たちが、メディアに大きく取り上げられることで使われていました。
ですが、当時は「come out」の言葉に、「隠れた状態から表に出る」という意味合いはありませんでした。
いまでは、セクシュアリティを本人のなかに秘めておく「クローゼット」と「come out」という言葉が、ときに対比的に使われることがあります。
ですが、「come out」が「告白する」という意味で使われていなかった当時は、2つの言葉が紐づくことはありませんでした。
外部からは、当時ゲイであることを隠していた当事者がクローゼットのなかにいるように見えたのかもしれません。
ゲイであることにプライド(誇り)をもつ当事者と、クローゼット状態にしておく当事者との両者が大きく乖離(かいり)することで、次第に現在のカミングアウトの意味へと変化したという言説もあります。
職場でカミングアウトしにくい実態
LGBT当事者のなかで、職場環境に限ってカミングアウトしない人は多くいます。
距離の近い友人に伝えるより、プライベートを出すことが少ない職場でカミングアウトすることは、かなりハードルが高いことでしょう。
そして、職場という閉鎖的で限られた環境で、自分を受け入れられない人と出会っても、毎日顔を合わせなければならないですし、関係を断つことは難しいのです。
2020年に行われたLGBT当事者をとりまく就業環境の実態調査では、職場でカミングアウトしていない当事者は82.4%という、かなり高い割合であることがわかります。
実際、結婚や恋愛の話題になると異性愛者を装って会話したり、同棲している相手の存在を隠したりなど、日常のなかでストレスに思うことはあります。
学校でこのような経験をしてきた当事者のなかでは、このような日々のストレスから脱却するため、就職の面接時にカミングアウトする人もいます。
職場により制度や空気感は異なりますが、カミングアウトしたことによって「福利厚生が受けられるようになった」「ストレスフリーな人間関係を築けるようになった」「LGBTQへの理解がより深まった」など、いい結果を招いたという意見も耳にします。