こんにちは、椎名です。僕は身体の性が女性で心の性は定めていないセクシュアルマイノリティで、女性のパートナーと生活をともにしています。
突然ですが、あなたの友人や家族など、近しい間柄の人のなかにLGBTQ+当事者はいますか?もしくは、好きでSNSなどを見ているインフルエンサーには?
親しい人や有名人の言葉は、ときにその人が属しているものの代表者の声に聞こえてしまうことがありますよね。
今回は「LGBTQ+当事者が言っていたから」と考える危うさについてお話しします。
人は身近な情報源を信頼する
新型コロナウイルスが流行した際、世の中は混乱していて、誰もがより確実な情報がほしいと考えていました。
身近に医療従事者がいれば情報を仰ぎ、それを「知り合いが医療従事者なんだけど、こんな風に言っていた」と周囲に話したり、そう話しているのを見聞きしたりしたこともあるのではないでしょうか。
自分から真相にアクセスしにくい・仕方がわからない場合、多くの人が真相に近い人に話を聞こうとします。
新型コロナウイルスが流行し始めたころはそれが医療従事者でしたが、それがいまはLGBTQ+当事者に対して起きつつあるのではないかと、ひとりのLGBTQ+当事者として感じています。
広島で行われたサミットに伴い、ほかの参加国から大きく後れを取っているLGBTQ+当事者への支援を進めることが他国から求められたり、よくも悪くも話題になった「LGBT理解増進法案」に伴う報道などを見聞きした際、当事者以外のかたは「実際のところどうなの?」と思ったのでは。
そのうえで身近にLGBTQ+当事者がいる場合や、当事者のインフルエンサーの発言を受けたとき、その当事者の言葉が当事者みんなの意見のように聞こえたり、受け手がそう感じてしまうことがあったのではないかと思います。
“LGBTQ+当事者”という括りが包括するセクシュアリティの幅広さ
「LGBTQ+当事者」とひと言で言っても、該当するセクシュアリティはL(レズビアン)、G(ゲイセクシュアル)、B(イセクシュアル)、T(トランスジェンダー)、Q(クィア/クエスチョニング)と、一括りにするにはあまりに幅が広いと感じています。
※“クィア”はセクシュアルマイノリティ全体を包括する言葉で、“LGBT”にあたらないセクシュアリティも含まれます。
筆者を例に、近頃話題になっていた“トランスジェンダーのトイレ問題”について、「LGBTQ+当事者としてあなたはトイレのことで困ったことはありますか?」と質問されたとしてみましょう。
筆者は身体の性別が女性で、心の性別は男女のどちらにも定めていないタイプのXジェンダー(Xジェンダーのなかでもさまざまなパターンがあるので、筆者の場合もあくまでもそのいくつかのなかのひとつのパターンです)。
両親には、女性として育てられました。いまはメンズ服を好んで着ていますが、背丈や体型をふまえた外見はおそらく男性よりも女性の方が近いでしょう。
自分の身体が女性であることに違和はあるものの、生まれてからずっと女性用トイレを使用してきたことと、防犯面でも女性用トイレを使用する方が安心できることから、身体の性別に合わせて女性用トイレを使用していますし、使用することにも違和感は全くありません。
なので筆者個人は、トイレの問題に対して困ったことがないLGBTQ+当事者だと言えます。
同じく、身体の性と心の性(性自認)が一致しているシスジェンダーのLGBTQ+当事者の場合も、おそらく筆者と同様に生まれ持った性別のトイレを使用することに違和感がないかたが比較的多いのではないかと思います。
しかしLGBTQ+当事者である筆者が生まれ持った性別のトイレを使用することに違和感がないからといって、すべての当事者もそう感じているとは限りません。
身体の性と心の性(性自認)が一致していないトランスジェンダー以外の、たとえば筆者と同じXジェンダーの場合でも、生まれ持った性別のトイレもしくは男女どちらのトイレにも使用するうえで違和感を感じるかたもいらっしゃいます。
もしも「違和感がない」という意見を筆者の意見としてではなく、「身近にいるLGBTQ+当事者(筆者)が言っていた意見だからこれが正解」だとLGBTQ+当事者の総意のように思われてしまうと、実際に困っている当事者の意見を封殺することになってしまいます。
筆者個人の考えとしては、自分が困っていなくても生まれ持った性別のトイレを使用し難いと感じている当事者の問題は解消されてほしいと考えているので、実際に困っている当事者の声が封殺されてしまうことは発言者としてとても不本意ですが、冒頭の医療従事者の話を思い返せば、身近で確実な情報源だと思ってしまうことにも頷けます。
これがインフルエンサーの場合ならば、「テレビではこう言っていた」という感覚に近い、漠然とした信頼性のある情報のように感じるのかもしれません。