離婚歴があると、次の恋愛を考えても「バツのある自分」が気になってなかなか一歩を踏み出せないという人は多いもの。
それでも離婚後に相性のいいパートナーと出会い幸せな恋愛を楽しんでいる人もいて、いまの自分に自信を持っているのがわかります。
「バツ」にとらわれずに充実した恋人関係を手にしている人たちは、過去の離婚についても前向きに乗り越えているのが特徴です。
いまのパートナーに、自分の離婚についてどう話しているのでしょうか。
自分で決めた離婚だったのに
3年前に「いわゆる性格の不一致で」離婚したミサトさん(40歳)は、現在は新しい彼氏がいて毎日楽しくコミュニケーションを取っていると言います。
離婚の直接の原因は「家族について元夫と考え方が合わなかった」ことで、子どもを作らなかったふたりは老後をどう過ごすか話し合ったとき、義実家を優先する元夫と喧嘩になったそうです。
「私の両親は市外にいて義実家は同じ市内なのですが、最初から自分の両親と暮らすことを計画する元夫に『私の親はどうするの?』と尋ねたら、『時間があるときに会いに行けばいいだろう』とまったく気にしていなくて、ショックでしたね。
親との同居も結局は私に介護をさせるのが目的で、『子どもを残せなかったのだからそれくらいはするのが妻の勤め』と暗ににおわせてくる元夫には落胆しかありませんでした」
子を作らなかったのは、ミサトさんが抱える持病やお互いにそこまで子ども好きでもないことから話し合って決めたのに、「いつの間にか私のせいで子なしで生きてきたみたいに義実家で認識されていて、つらかったです」とミサトさんはため息をついて当時を振り返ります。
正社員で長年働き高い年収もキャリアもあるミサトさんは、このときに離婚を考えました。
「子どもを持たなかったことを私自身はまったく後悔していませんが、それを外野にあれこれ言われ続けるのは耐えられなかったし、一番身近な夫がこうでは幸せな老後は過ごせないとはっきり思いました。
別れるならいましかないと思い切り出しましたが、元夫は大反対で義母にも電話でずっと責められて、おかしくなりそうでしたね…」
何とか離婚できたのは、ミサトさんが家を出て別居を始めて半年後。
「私が家庭に戻る意思がないことをやっと理解した元夫が、財産分与で自分が多めに財産を受け取れるなら離婚する、と言い出して。
それは筋が違うと思いましたが、これ以上揉めるとストレスしかないので私が譲歩して、貯金の3分の2を元夫に渡す形で話がまとまりました。
手切れ金と思えば安かったといまは思っています」
そのときはさっぱりとした顔でそう話すミサトさんは、それでも離婚後しばらくは自分のわがままで離婚したのでは、と苦しんだそうです。
「冷静になって考えると、離婚までする必要はなかったのではないか、元夫や義実家と話し合って別の過ごし方を提案することもできたのではないか、と自分が無責任に思えてきて。
世間から見ればまるで私がラクをしたくて離婚したと思われそうで、いっときは友人たちにも離婚したことは伏せていました」
ある男性との出会い
配偶者の不倫やDVなど、相手にはっきりと非がある離婚の場合は、こんな悩みは生まれません。
ミサトさんのケースは極端にいえば元夫のモラルハラスメントがあったとも言えますが、いわゆる「世間」から見れば、「その程度のことで」と感じる人や「元夫の言う通りだ」と眉をしかめる人もいる可能性は避けられず、自分の選択についてミサトさんは自信を失っていました。
独身となりひとり暮らしを始めてから、離婚の理由について人に尋ねられるたびにどこか肩身の狭い思いをしながら、自分の両親と暮らすことしか頭にない元夫との価値観の不一致について説明していたそうです。
そんななか、仕事の会合で、ある男性と出会います。
その男性は45歳、ミサトさんと同じバツイチでお子さんとは別居、離婚後は毎月養育費を払っていることを、早い段階でミサトさんは知らされました。
「会合で毎月顔を合わせるうちに仲良くなって、私は特に自分について話すことはなかったのですが、彼のほうが積極的に打ち明けてくれました。
仕事のことで『スムーズに進められて助かる』といつも言ってくれて、私が残業や休日出勤をまったく気にしないことから独身であることがバレたけど、そのとき『体が資本だからね、体調管理はお互いに気をつけようね』って真剣な顔で口にした彼を覚えています」
未婚ではなく離婚歴があることは伝えたけれど、離婚の理由についてあれこれ詮索してくることもなく、ミサトさんは気楽にいられたそうです。
どうして彼のほうから自身の離婚について話してくれたのか、後になって尋ねたとき、「女性ってたいてい子どものこととか養育費のこととか気にするんだよね。それで、俺が正直に打ち明けたら冷めたように引いていくの。子どもがいて自由に使える金が少ない40代のバツイチなんて、そんなものだよ。だから、最初のうちに話しておいて、それでも大丈夫な人とだけ仲良くなりたくて」と、あっけらかんとした様子で話してくれたそうです。
「これも現実なのだ、とそのときハッとしました。私は私で離婚の理由について後ろめたさがあったけど、この人は奥さんの浮気で離婚を選んでもその後でこんな思いをしているのだ、と考えたら他人事とは思えなくて。それで私も思い切って自分のことを打ち明けました」
元夫とすれ違った老後についての考え方、「子を残さなかったのだから夫の親の介護は当然」とされることのおかしさ、自分の親を置いてけぼりにされる悲しさなど、ミサトさんはどう思われるのか大きな不安を抱えながら、正直に話します。
自分の人生に責任を持つからこその「離婚」
「そのときは会合の後に居酒屋に行ってふたりで軽く飲むような間柄になっていて、話すならこのタイミングしかないと思いました。お互い何となく好意があるのはわかっていたから、すごく緊張しましたね。
『それは無責任では』と言われたらショックを受けるし会合でも気まずくなるし、それでも、彼に知ってもらいたいと思いました」
ミサトさんの話を黙って聞いていたという彼は、「私はこんな事情だった」と締めくくるミサトさんに向かって、「自分の人生って、誰も責任を取ってくれないんだよね。俺も『子どもがいるのに離婚するなんて』とか言われたけど、じゃあその人が俺の結婚生活を助けてくれるのかって、そうじゃないし。どうしてつらい思いをしてまで結婚を続けないといけないのか、それは当事者の問題でしかないと俺は思う。自分の人生に責任を持つから離婚を選ぶんだよね」と静かに話してくれたそうです。
ミサトさんは「そんな見方があるのか」と男性の意見に驚き、同時に深い安堵を覚えます。
それは、自分の選択を責められなかった安心感ではなく、「自分の人生に責任を持つからこその離婚」という、ずっと抱えてきた本音をはっきりと言葉にされたからでした。
「私と彼とでは離婚の事情はまったく違うけれど、それを選んだ根本が同じなのだとわかって、あれほど気持ちが楽になったことはありませんでした。
いままで世間の受け止め方ばかり気にしていた私は、やっと自信を取り戻せたというか、『間違ってはいなかった』と胸を張れるようになって、うれしかったです」
ありがとうとお礼を言うミサトさんに、彼は「女性だとそんな悩みもあるのだね。俺もいままでここまで話せる人はいなかったから、正直になれてうれしいよ」と笑顔を見せてくれたそうです。
この夜がきっかけで、ふたりの距離はぐっと縮まります。
会話の内容はお互いの人生観など深い部分について触れることが増え、恋愛への姿勢なども自然と話せるようになりました。
「彼は、そうは言うけれどいまの自分が女性の恋愛対象になるとは思っていなくて、『新しい彼女なんて諦めている』と繰り返していました。
私が彼の状況を知ってなお離れていかないことや、離婚について打ち明けあって前より気楽にいられるようになっても、だから好きになる、とは限らないですよね。仲はいいのに立ち止まることが多くて、もやもやすることもありました」
笑いながらそう話すミサトさんは、つらい思いをしたからこそ先を急ぐのではなくて、ゆっくりと関係を楽しむことを意識していたと言います。