女性が怒った理由とは
その翌日はすぐに帰宅したため時間通りに散歩に出ると、公園ではその女性が立っていました。
「あ、待っていたのか、とドキリとしましたね」そのときは、昨日来なかったことを特段責める言葉はなく、お天気や町内会の話をして終わり、女性が「約束」を気にする様子はなかったと浅川さんは言います。
「問題は次の日で、残業があったのでお散歩の時間が遅くなったのですが、公園に行くとその人がいました。明らかに不機嫌そうな顔で、挨拶をするなり『待っていたのに』と言われたときはショックでしたね…」
女性のほうは「約束ができた」のだと思っていたとわかり、一応は謝ったものの、浅川さんは「散歩の時間を毎日同じにするのは難しくて」と先日と同じ事情を説明します。
すると、女性から返ってきたのは「それじゃ、この子が可哀相じゃない」と、ルイちゃんの気持ちを決めつける言葉でした。
「人間の都合に合わせて散歩の時間を変えるのはおかしいと続けて言われて、正直に言えばちょっと引きました。こっちは仕事をしているわけで、何でもルイを中心にするのは無理です。散歩の時間がずれることならルイはずっとそれでやってきて慣れているし、一方的に可哀相とか言われて、カチンときました」
浅川さんが嫌悪感を持ったのは、女性が吐いた「飼い主失格ね」という言葉。
待ち合わせを提案してそれをこちらは断ったにも関わらず勝手に「約束した」とされ、守らなかったらペットの気持ちを持ち出して「飼い主失格」とまで言われることに、浅川さんは大きな違和感を覚えずにはいられませんでした。
「何を言っても無駄だ」と怒りとともに割り切った浅川さんは、女性を残してその場を去ります。
「近いからこそ」のコミュニケーションの難しさ
「次の日から、散歩のルートをこれまでと正反対の方向にしました。夫にこのことを話したら、『自己中心的な人だな。もう会わないほうがいい』と私と同じ気持ちで、これ以上関わらないのが一番だねとなって」
引っ越してきた先でおかしなトラブルは避けたく、浅川さんは女性を刺激しないよう散歩の時間も遅くして、それからは道端で会うこともなくなったと言います。
「ところが、先日のことですが帰宅した夫が『お前が言っていた◯◯さんって、コーギーを連れているんだよな?さっきそこで見かけたぞ』と言い出して。その人のルートからここは外れるのに、まさか家まで様子を探りに来たのか、と想像したらぞっとしました」
その時間は浅川さんも散歩が済んで家に帰っているときで外は暗く、なぜそんなタイミングでワンちゃんを連れて歩いているのか、不審感が募ったそう。
「本当にその人かどうかはいまもわかりません。でも、夫が話す服や顔の感じが女性と同じで、そうだろうなとは思っています。住んでいる家をお互いに明かしていたことが、裏目に出ました」と浅川さんはため息をつきました。
その日以降、浅川さんも旦那さんもその女性を見かけることはありませんが、「ルイちゃんの散歩に出るときは毎日緊張する」と言います。
ふたたび顔を合わせたときにどう対応すればいいのか、後味の悪い終わりのままつながりが切れてしまった状態は、浅川さんにとっては無視できないストレスです。
相手がご近所さんだからこそ、こちらが距離を置いても向こうが動けば影響を受ける可能性は高く、女性が何をするかわからないことが浅川さんの何よりの不安。
「私の言葉をまったく聞かずに何でも決めつけるようなあの人を見て、もう会話が成立するとは思えません。それまでは普通に楽しく話せていたのに、約束を勝手に作られてこうこじれてしまうと、仲直りなんてできないですよね」
前向きなコミュニケーションを取りたくても、こちらの努力だけでは叶わないのが人間関係です。
ご近所さんならなおさら、無関心でいたくても相手の出方によってはそうもいかないときもあり、どう接していけばいいのか悩みますよね。
「せめて、ご挨拶ができるような関係には戻りたいですね…」
浅川さんのいまの願いは、女性がおかしなことを考えず穏やかに過ごしてくれること、そして自分との確執を忘れてくれることだそうです。
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