母が「養母」になっていた理由
電話に出た母の声。わたしはなんとか「戸籍謄本届いたよ、それでね…」と言いましたが、その後の声が震えてしまい、次の言葉が出ませんでした。
母も「ああ、その話はしなくちゃいけないと思っていたんだけどね…」と言って、ことの顛末を話してくれました。
そのとき初めて知ったのですが、父はわたしの母とは再婚だったそう。父の前妻とはソリが合わず、夫婦仲が最悪だったときにうちの母が父の会社に住み込みで働き始め、父は母に一目ぼれ。
妻がいるのに熱心に母にアプローチしまくるうちの父。そして戦争でひもじい思いをし、あまり愛を受けて育たなかった母はその情にほだされ恋仲に。前妻は前妻で父の兄と良い仲になったりと、なかなかのカオスな状態だったのだとか…。
それで結局前妻は宗教にもハマり、耐えかねた父が離婚を切り出すも、なかなか離婚が成立せず。その間にも父と母の恋は進行し、籍が抜ける前にわたしができてしまったそうな。
籍が抜けていないのに生まれてきちゃったわたし。通常ならそこで、母の戸籍にシングルマザーとしてわたしを入れたらよいと思うのですが、出生届は「うまいことやるから」という父の言葉を信じて父に任せてしまった母。
父はエイヤと前妻の子としてわたしの出生届を出し、前妻もわたしもそのことを知らないまま、わたしはすくすくと実の母に育てられていたのです。
母はそこまで話して「とにかくあなたはわたしの実の子ということは間違いないからね」と念押ししました。
そう、書類よりもいままで一緒に暮らしてきた母が本当の母かどうかという部分はわたしにとっても重要なことでした。それがわかって一旦ほっとしました。
ですが、その後の戸籍を見ると、いちおう前妻とは離婚して籍を抜いている。だったら実の母とわたしを結び付ければよいのに、なぜか戸籍上はわたしの母と「養子縁組」の関係になっているのです。
たしかに養子縁組の関係であれば扱いは実子と同等ではありますが、やはり実の母には実の母として戸籍に載っていてほしい。なんとかして現状と同じ状態にしてもらえないかと母にお願いしました。
すると母は「お父さんに任せているんだけどね、前の奥さんも絡むから難しいらしいのよ」というのです。
「いやこれ結構重要なことだと思うんだけど、変えなくちゃダメじゃない?」とまだ未成年のわたしでも思いました。
実家に帰ったときに父にも言いましたが、父は都合の悪いことは笑ってごまかす悪い癖があり、結局話にならず。どうにかしたいと思いつつ、大学生のわたしはなすすべもなく、そのまま月日が過ぎて行きました。