彼女との対話
撮影の準備について話している最中、僕が不満をもらしたことで軽い口喧嘩に。口喧嘩の延長でついに、「どうして一緒に考えてくれないのか」
「また僕だけが準備をしていることが不満だ」と彼女へ問いかけました。
実際はもう少しオブラートに包んでいたつもりですが、彼女には言い方が強く感じたかもしれません。言葉に詰まり、返答を考えているようでした。
考えていることや自分の感情を言葉にするのが比較的得意な僕とは異なり、彼女はあまり自分の考えをつまびらかに話すタイプではありません。
本人もそうすることが苦手だと以前話していたのを覚えていたので、僕から問いかけたあとは追い打ちをかけたり問い詰めたりせず、その理由が彼女の口から出るのを待つことにしました。
しばらくしてぽつりと零れた言葉は、僕にとってとても意外なものでした。
「私はそこまで、パートナーシップ宣誓を特別なお祝いだと思えない」。少し申し訳なさそうにそういった彼女は、僕に表情を見せないように俯いていて。
「どうして?」「だって、結局は同性婚じゃないから」
そのまま話を聞いてみると、どうやらそのときの彼女にとってパートナーシップ宣誓制度を利用することは、結婚できないのならしないよりはした方がいい程度のものとのこと。
それでも利用することでふたりの関係性が証明できて、なおかつ将来の不安がほんの少しでも減るなら、利用しない手はない。
だから利用は絶対にしたいのだけど、結局パートナーシップ宣誓は婚姻関係になれるわけではないというのが、彼女のなかでどうにも引っかかっていたそうです。
そのこともあって、いまいち準備にも乗り気になれずにいたようでした。
ラフな写真と彼女が言ったのも、僕は単純にドレスやタキシードといったフォーマルなものではなくカジュアルな装いでと受け取りましたが、彼女にとっては「結婚ほどでもないから」という意味合いが強かったから「ラフな写真」と言っていたのだそう。
これらの理由はけして後ろ向きなものではなく、あくまで僕と彼女が一緒に暮らしていくことにかわりはないのだから、という前提でのもの。
話してくれたことで彼女にとってのパートナーシップ宣誓制度への価値観を知るきっかけになり、かえって「彼女も僕と同性婚をしたいと思ってくれているのだ」と嬉しくなりました。
僕も彼女と同性婚がしたい。しかし彼女と暮らすなかで、記念日や楽しみが増えるのは僕にとってとても嬉しいことでした。
勝手に彼女も同性婚を望むことは変わらないけれど、いったん置いておいて目の前のことを楽しみたいと考えているような気になっていましたが、思い違いをしてしまっていたようです。
「僕も同性婚はしたい。だけどこの年齢でこのパートナーシップ宣誓をするのは、今回が最初で最後なのは事実だから。ちゃんと思い出に残したいし、ふたりで一緒に楽しみたい」
そう言うと、最終的には「たしかに、それもそうだね」と少しだけ前向きに取り組んでくれることになりました。
それから
パートナーシップ宣誓に必要な書類をお互い用意する傍ら、彼女は撮影の準備も一緒に進めてくれるようになりました。
カメラマンは、学生時代から写真を趣味にしている仲のいい友人に依頼し、撮影までに彼女との顔合わせを兼ねた打ち合わせも実施。
無事パートナーシップ宣誓の申請自体も承認され、記念撮影にこぎ着けたのです。
話し合いの末、撮影当日の服装は彼女は白いワンピースを、僕は白いパンツでジャケットを羽織ったウエディング風のカジュアルなスタイルを選びました。フォトウエディングをした際に使った小道具も使いました。
カメラマンを引き受けてくれた友人のあたたかい気遣いのおかげもあり、写真はとても自然で「ラフな」雰囲気に。リラックスした雰囲気のとても僕たちらしい写真に、彼女も満足してくれたようです。協力してくれた友人には感謝しかありません。
僕はずっと、彼女とは「パートナーシップ宣誓と記念写真」という同じ目標に一緒に向かっているつもりになっていました。
しかし、実際はふたりの目標に対する考え方や価値観は少し違っていて。それは話してみなければわからなかったことで、彼女が正直に話してくれたから、いざこざの原因である理由を知ることができました。話してくれたからこそ、改めて一緒に目標に向かうことが出来たのです。
僕たちにとっては2回目でしたが、多くの場合は結婚式自体がそのカップルにとってははじめての大きな共同作業。いざこざがつきものならば、それを乗り越えるための対話もまた共同作業の内のひとつなのかもしれません。
月並みな言葉ですが、話さないとわからないことは往々にしてあり、わかったあとはお互い歩み寄らなければ解決は難しいように思います。
結婚式の先にはいずれもっと大きな問題や課題を一緒に乗り越えていかなければならないと考えれば、結婚式の準備に伴ういざこざは対話による解決をする試練や練習なのかもしれません。
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