恩が仇になった?
そのときは、「あまりにも真正面からお願いされて、つい引き受けた」という裕美さんは、頼まれたものをカゴに入れて精算を分け、帰宅してからお隣さんを訪ねて手渡しました。
奥さんは「ありがとう、助かりました」としっかりとお礼を言って受け取り、代金もレシートの通りに払い、裕美さんはほっとしたそうです。
「夫が帰ってからこのことを話したら、やはりびっくりしていました。天気が悪くて買い物に行けないからって、隣に住む人間に自分のほしいものをいきなり頼むって、非常識じゃないのかって…」
頼まれた数が少なく支払いも高額ではないので裕美さんも承諾できましたが、「問題は自分のお願いを『ついで』と言えることだ」と夫は口にしました。
自分と同じところに違和感を覚えることに、裕美さんは安堵したそうです。
手間や労力、精算を分けることや帰ってから訪ねていかないといけないストレスについて全く触れられず、ついでに利用されるのは二度とごめんだと思った裕美さんは、今後のお付き合いは控えることを夫と話し合いました。
一方で、裕美さんにはお隣さんの言動について「これができる心当たり」がありました。
1カ月ほど前、まだ寒さが厳しく雪が降るなかアウターを着込んで出勤していたころ。
帰宅してばったりと庭で会ったお隣さんは「自転車通勤だと寒くてたまらない」と震えており、大変さは想像できるので裕美さんも「風邪をひかないでくださいね」と言葉を返したそうです。
そのとき、「ホッカイロが切れてしまって、夫に買ってきてとお願いするのだけど、いつも忘れるのよね。あしたたどうしよう」と困り顔で肩を落とすのを見た裕美さんは、「つい老婆心がはたらいたというか、それくらい私が買ってこようと思ってしまったのですね。ホッカイロを買ってお隣さんに持っていったら、ものすごく喜んで代金もしっかり払ってくれて、私もいいことをしたと思っていました」と、短慮で動いたことを後悔していました。
これがあったから、裕美さんに「ついで」で用事を頼んでもいいと思ったのかもしれません。
止まらないお隣さんの行動
裕美さんの好意での行動をお隣さんがどう受け取ったにせよ、気軽に買い物を頼むのはやはり境界線を超えていると言えます。
「この人は聞いてくれるだろう」という思い込みは一方的なもので、裕美さんの負担を無視した「お願い」は筋が違うもの。
「利用されたくない」と思った裕美さんは、それからしばらく退勤後は帰宅せずそのまま買い物に行き、帰ったらクルマを出さないようにしていたそうです。
ところが、その後も家に帰って少しするとお隣さんが訪ねてくることがたびたびあり、出かける気配のない裕美さんを見ると「世間話をしてまた帰っていく」状態が続きます。
別の用事で裕美さんが出かける準備をしているときは、「どこに行くの?」と聞いてくるので、買い物ではなく「友達と会ってくる」「本屋に行く」など、嘘をついて切り抜けていました。
こんな時間も裕美さんにとってはストレスであり、「インターホンが鳴ることにもう恐怖を感じたりしました。2回ほど居留守を使ったこともあります」と、お隣さんとの接触そのものを避けるようになります。
隣の奥さんがどんな思惑で訪ねてくるのかは正確にはわかりませんが、相手をすること自体が裕美さんにとっては苦痛でした。
そんな裕美さんを見て夫も「会わないほうがいい」と言ってくれたそうで、いまは子どもたちにも「お隣さんと会ったら挨拶だけして帰っておいで」と話しているそうです。
隣に住む人間同士、仲はいいに越したことはないけれど、礼を欠いたお願いを受け入れる必要はありません。
一度聞いてしまえば今後もそれが続く可能性は高く、「諦めてもらうのが一番」と裕美さんが話す通り、過剰な接触は避けるのが賢明です。
お隣さんであっても、お互いを尊重したお付き合いができないときは、不要なトラブルを起こさないために身を守る意識も大切だと感じます。
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