こんにちは、椎名トキです。僕は身体の性は女性ですが、心の性は定めていないセクシュアルマイノリティ(セクシャルマイノリティ)です。
僕はマンガが大好きで、アプリでも紙でもよく読みます。読んでいる作品のジャンルは主に少年誌、青年誌系ですがそれ以外のジャンルでも気になったものは幅広く読んでいます。なので、恋愛を扱う作品を読むことも珍しくありません。
男女の恋愛を扱う作品や「BL」「百合」と呼ばれる男性同士、女性同士の恋愛を描いた作品も同じように好み、どれに対しても読むことに抵抗感はありません。
きょうは、女性のパートナーと暮らしているセクシュアルマイノリティの僕の視点から見た「BL」や「百合」について書いていきたいと思います。これらを普段読まないかたも、僕と同じくBLファン・百合ファンのかたもよかったら少々お付き合いください。
「BL」や「百合」って?
まずはBL・百合の説明から簡単にしましょう。BLは「ボーイズラブ(Boys Love)」の略で、男性同士の恋愛を扱った作品を指しています。
2018年に放送されヒットしたドラマ『おっさんずラブ』や、2019年に放送されて2021年11月3日に劇場版が公開された『きのう何食べた?』ではじめてボーイズラブ作品に触れたというかたもいらっしゃるのではないでしょうか。
2020年の自粛期間中には、タイのボーイズラブドラマ『2gether』が日本国内でも人気となったことも記憶に新しいですね。
では百合はというと、1971年創刊の日本初の商業ゲイ向け雑誌『薔薇族』で男性同士の恋愛を薔薇、対して女性同士の恋愛を百合に例えたことが由来と言われています(参考:「numan」)。また「ガールズラブ(Girls Love)」の略でGLとも呼ばれますが、今回は「百合」と統一します。
BLと百合どちらにも二次創作と呼ばれる既存のマンガや小説などをモチーフにしたジャンルもありますが、今回取り扱うのはあくまで一次創作、オリジナルで制作されたマンガや小説、ドラマなどを対象として触れていきます。
なお、僕はBLのほうが百合よりも好きになってからの歴が長いため、ややBLに偏った書き方になってしまうことをご了承ください。
実在の同性愛者と「BL」「百合」
セクシュアル(セクシャル)マイノリティの当事者のなかには、「BL」や「百合」に対し、あまりいい印象を抱いていないかたもいます。
もちろん僕と同様にセクシュアルマイノリティのBLや百合ファンもいますし、どちら一方が正解でどちらが間違っているということはありません。
よい印象を抱いていない理由のひとつとして「BL」「百合」がセクシュアルマイノリティを取り巻く実情とは異なる描かれ方をしてきたということが挙げられます。
BLファンの間では「BLはファンタジー」と長い間言われてきたように、同性愛者は現実にいるにも関わらず、同性同士の恋愛であるBLは現実ではないような感覚があったのかもしれません。
BLというジャンルは「LGBT」という言葉(現代はさらに多くの性的少数者を表すLGBTQ、LGBTQ+など性自認についての表現も増えています)がニュースなどを通じて一般的にも知られるようになるよりもずっと以前から、書き手も読み手も女性を中心に広がり続けられてきました。
彼女たちは2000年代中頃以降一般にも認知されるようになり、“腐女子”と呼ばれるようになりました。もちろん、男性のBLファンもいます。彼らは腐男子と呼ばれています。
僕がセクシュアルマイノリティ当事者としてそれまでより声をあげやすくなったと感じるのも、「LGBT」について知られるようになってからです。声をあげやすくなったことで、セクシュアルマイノリティの実情がマジョリティである異性愛者や、同じ当事者にも届きやすくなったと感じています。
それ以前はエッセイのような実情を反映したエッセイも、事実に即したフィクションの物語も、同性愛を扱った作品は少女漫画や少年漫画のように誰もが気軽に触れることができるものではなく、どこかひっそりと手に取るような雰囲気が確かにありました。
当事者自身も声を上げ難く、インターネットもいまほど普及していないことから、知りたい人が実情に即した情報や作品にアクセスし難かった時代。
しかも作中の主人公たち(BLの場合は男性が主人公)にとっての異性(女性)が作者・読者の中心であったと考えると、実情とフィクションのBLの恋愛間にギャップが生じてしまうことは、いまとなってはある程度仕方がなかったといえてしまうのかもしれません。
そのせいか、当時のBL作品には男女の恋愛の様子をただ男性同士に置き換えたような、まるで異性愛のように作品が描かれた側面もあると僕は考えます。これは、百合においても言えるかもしれません。
そして実情と異なるにも関わらず、当事者以外にはそのギャップを感じ難い状況になってしまっていたのではないでしょうか。
これでは、実情を知らない非当事者は、BLと実際の男性同士の恋愛が近しいものだと感じてしまうでしょう。そして当事者に対し悪気なく、むしろ善意で「BL(百合)好きだし、偏見なんてないよ」「BL(百合)で読んだから知ってるよ」などと言ってしまい、当事者が相手との意識のズレを感じるということに繋がってしまっていた可能性があります。