こんにちは、椎名です。僕は身体の性が同性である彼女とふたり暮らしをしているセクシュアル(セクシャル)マイノリティ当事者です。
今回は2021年11月3日に公開になった劇場版『きのう何食べた?』を鑑賞してきたので、鑑賞後の感想をLGBTQ事者目線でお話しします。
鑑賞後すぐに執筆しているのですが、率直に言うとすごくよかったです!
この記事はネタバレを含むので、すでに鑑賞されたかたや原作を読んで今回のストーリーをご存じのかた向けかもしれません。よかったらお付き合いくださいね。
とにかく微笑ましい。劇場内があたたかさに包まれた『何食べ』
『きのう何食べた?(通称:何食べ)』は、累計発行部数815万部(電子版含む)突破のよしながふみさんによる人気漫画を、俳優の西島秀俊さん(筧史朗<通称・シロさん>役)と内野聖陽さん(矢吹賢二<通称・ケンジ>役)のダブル主演で、2019年4月クールにテレビ東京系列にてドラマ化・放送した作品。
放送後はTwitterの世界トレンド1位を獲得したり、見逃し配信の再生数が全12話100万回再生を超えて歴代最高記録を次々と更新するなど、大人気のドラマでした。
僕はドラマ化以前から評判のよさとタイトルは知っていたのですが、実は原作を読んでおらず、2019年に放送されたドラマ版ではじめてこの作品に触れました。
2020年始の正月スペシャルが放送されたときは嬉しく、「次はシーズン2かな?」なんて考えていたところに劇場版が決定!放映開始を心待ちにしていました。
劇場版は、全編を通してシロさんとケンジの仲睦まじい日常がぎゅっと、これでもかと詰まっていてあっという間の2時間でした。
冒頭からタイトルクレジットまでの京都旅行のシーンは、シロさんとケンジのふたり旅という内容。このシーンを観て、ドラマ版第10話でケンジがクレープを食べながら「旅行に行きたい」と話していたのが叶ったんだなぁなんて幸せな気持ちになりました。
とにかく、ふたりのやり取りが微笑ましい。たとえば映画のド頭、シロさんがケンジを旅行に誘うシーン。
クールだけれどケンジを大切にしているシロさんの様子や、思いがけず「憧れが叶う」と弾けるように喜びながらシロさんとのひとときを本当に幸せに思うケンジの様子が見てとれます。
この開始数分間で「ふたりはドラマのときから変わりなく過ごしているんだな」なんて思って頬が緩みました。
物語に登場するもう一組の同性カップル、山本耕史さん演じる小日向大策(通称・小日向さん/大ちゃん)と、磯村勇斗さん演じる井上航(通称・ジルベール) 。ドラマ版では小日向さんの愛情を試すことばかりをしていた、ジルベールの成長が少しだけ感じられたのもよかったです。
たとえば、壊れてしまった冷蔵庫の中身を持ってきた場面。ケンジがシロさんと小日向さんのやりとりに嫉妬をしていることを知ると、ジルベールは「大ちゃんは自分のことしか見ていないのだ」と自信満々にいいます。
ここが特に、以前よりも関係性に安心感があるような気がして微笑ましく感じました。小日向さんも取り繕うのではなく、むしろ少しからかうようなことまで言っていていましたし。
登場人物の関係性がしっかりと見て取れる演出と、ドラマ版と変わらぬふたりのやり取りで劇場内が一気に和み、微笑ましいシーンやクスッと笑える場面ではそこかしこから小さな笑いが上がるような、とてもあたたかい雰囲気でした。
「恋人」から「家族」になったふたり
ドラマ版12話と特番1本分をかけて、シロさんは少しずつご近所にカムアウトをしたり、「ゲイであることがバレないように…」と一挙手一投足を気にしていた、かたくなな緊張感を解いていきました。
とはいえ、少し不自然なくらいに旅先で開放的になってしまいます。ケンジはその様子に嬉しくも不安になり、「別れ話を切り出されるのでは?」「もしかして何か重大な病気に罹ってしまって余命いくばくなのでは?」と悪いほうへ悪いほうへと妄想を繰り広げてしまいます。
結局は思い過ごしだったわけですが、そこもすぐ妄想を広げてしまうケンジらしさが出ていたシーンだったのではないでしょうか。
後半の展開では、今度はシロさんが「ケンジが浮気をしているのでは?」「どこか身体に悪いところがあってそれを自分に隠しているのでは?」と不安になり問い詰めることになるのですが、僕にはこのシーンが冒頭の京都旅行の“テンドン”ではなく、ふたりが同棲生活を通して段々と似た者同士になってきたことがわかる展開に見えました。
本当にシロさん、雰囲気がやわらかくなりましたね。周囲を過度に気にしていた角が取れて、表情もやわらかなシーンがかなり増えた気がします。
ふたりの正式な交際は、ドラマ版を観る限りでは同棲生活と同時にスタート。何年もかけてふたりで向き合い、大なり小なりを乗り越えながら暮らし、この映画では恋人同士から家族になったんだなぁとしみじみ思いました。
ケンジが「実家を継ぐよう言われた」と言いにくそうに告げると「俺も引っ越さなきゃいけないな」なんてシロさんは随分あっさりしていたし、この先もふたりで暮らす選択をしていくことが当たり前だと思っているように見えることが僕のなかでこう考える決定打でした!
僕と彼女もいまは恋人同士ではなく夫婦、家族として生活を共にしています。男女の結婚のような社会的な区切りがない分、同性で一緒に暮らしていると、“恋人”としての同棲から“家族”として一緒に暮らしていると感じるまではグラデーションのような変化になるのです。