みなさんこんにちは。露木行政書士事務所の露木幸彦です。私は行政書士・ファイナンシャルプランナーとして、新型コロナウイルスで経済的に苦しむ人のご相談を受けています。
実はコロナ禍で遺言、贈与、相続の法制度が次々と改正されています。しかも、お金の損得に直結する条文ばかり。
残念ながら、新型コロナウイルス以外の情報は埋もれがち。新制度の恩恵にあずかるにはどうしたらよいのでしょうか?
今回は「相続しなくても家に住める権利」についてお話しします。
「相続しなくても家に住める権利」がある?(2020年4月~)
- 配偶者居住権の新設(民法1028条)
- 妻vs息子
- 2020年離婚協議中に夫が死亡。夫の遺産は自宅のみ。相続人は息子だけ。しかし、息子は売却を希望。妻が引き続き自宅に住むには…?
こちらのケースは、所有権を息子に譲る代わりに、居住権を設定する新制度「配偶者居住権」を使いました。
別れ話の最中に夫が交通事故で急死
「あいつなんかいなくなればいいと思っていました。でも本当に死ぬなんて…」と驚くのは鴨下涼子さん(仮名・49歳)。
当時、夫と離婚協議の真っただ中でしたが、死別で状況は一変。26年の結婚生活は突然終了しました。
夫は、いわゆる亭主関白。たとえば、「夕飯は5品以上用意しろ」「洗濯かごは空の状態が当たり前」「台所のシンクはサビなしじゃないと許さない」。
そんな身勝手な要求に応えても、夫は遊び放題。一例を挙げると「メシがまずい」と生活費を出し渋り、浮いたお金で飲み歩き、酩酊で帰宅して玄関で粗相をするなど。
涼子さんはとうとう我慢の限界に達し、離婚を切り出したのは逝去の1カ月前でした。
宣言中に自粛しない店でウサ晴らし
緊急事態宣言中の2020年12月。夫は、闇営業をする店を発見し、自分と涼子さん2人分の特別定額給付金(20万円)を手に、飲み屋さんに繰り出しました。
久々の外飲みでハメを外して、泥酔状態。1人で赤信号の横断歩道を渡ろうとし、タクシーにひかれ、全身を強打し死亡しました。一報をくれた警察署員いわく、即死だったそうです。
何もない夫が残したのは「家」だけ
ろくでなしの夫はカードローンが返済不能に陥ると会社を辞め、退職金で完済。これを過去に4回繰り返していました。
最後の退職金はスズメの涙ほど。保険にも入らず、価値があるのは団信とローンを相殺した自宅のみでした。
居場所を失うと生活できない…
悩みの種は息子(24歳)の存在。遺言がないので折半が原則ですが、涼子さんの収入は月12万円(パート+遺族年金)のみ。
「息子は家を売ってと言いますが、生活があります」と涼子さんは肩を落とします。家から追い出されたら、家賃を払う余裕はありません。
浪費家の夫のもとで育った息子さん。大学の学費(500万円)をすべて奨学金で借りざるを得ず、現在、休日にアルバイトをして返済する日々。
不動産屋の査定額は1200万円。売却益を折半すれば奨学金を完済可能。「自由になりたい!」と息子は切望します。
所有権を譲る代わりに居住権を
そこで私が提案したのは配偶者居住権の設定。これは所有権を息子に譲る代わりに、涼子さんが引き続き居住できる新制度。
父の相続で5割、母の相続で5割。遅かれ早かれ、1人息子の取り分は10割です。
それなら母が住んでいる間は待ってほしい。涼子さんの懇願に対し、息子は「もし再婚したら出て行って」と承諾。後日、法務局で所有権と居住権の登記を行いました。
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