こんにちは、椎名です。僕は身体の性が女性で心の性は定めていないセクシュアルマイノリティで、女性のパートナーと生活をともにしています。
僕は、日本で生まれて、日本で育ちました。ご飯はおいしいし、好きな風景も大好きなコンテンツも豊富。生まれ育った国だと思えば、愛着もあります。
しかし僕は、Instagramに届いた海外のかたからの「日本で幸せに暮らせている?」という問いかけに、手放しに「もちろん」と答えることができませんでした。
なぜなら僕は、性的マイノリティで身体の性別が同性のパートナーを愛しているからです。
メッセージをくれたのは、LGBTQ+当事者としてInstagramで発信している僕の投稿を見た、海外に暮らす同じくLGBTQ+当事者のかた。
「パートナーと幸せに暮らしています。だけど同性婚ができないことはとても残念です」それがそのときの精一杯の返事でした。
厳しい目を向けられている日本
ご存じの通り、日本では同性同士の婚姻は法的に認められていません。
先進国とされるG7の加盟諸国のなかで、同性婚やそれに準ずる法整備がなされていないのは、なんと日本だけです。
2015年、渋谷区と世田谷区がパートナーシップ制度を施行すると、渋谷区と世田谷区に続くように少しずつ日本各地でパートナーシップ制度を導入する自治体が増えていきました。
婚姻の平等(同性婚)を実現させるべく活動している公益社団法人「Marriage For All Japan – 結婚の自由をすべての人に」によると、2024年7月1日時点で、日本全体の人口に対してパートナーシップを受けることができるカバー率は約85%だそうです。(参考:Marriage For All Japan)
未だ日本中のどの自治体でもパートナーシップ制度を利用できるわけではありませんし、利用できたとしてもあくまで効力は自治体のなかのみ。法的な効力はありません。
筆者もパートナーと東京都のパートナーシップ宣誓制度を利用していますが、ないよりはあった方がいいけれど、法的効力がない以上、制度として十分とは思えません。
法的に効力のある、G7の加盟諸国で認められている同性婚やそれに準ずるものとはまったく異なるものだと感じています。
2023年、広島でのサミット開催に際し日本以外のG7加盟国とEUの駐日大使から連盟で、首相である岸田文雄氏に宛てに、セクシュアルマイノリティ当事者の権利を守るための法整備を促す書簡が取りまとめられました。(参考:東京新聞)
この年に開かれたサミットで、日本は議長国。その議長国が唯一、上記のような状態にあることに厳しい目を向けられていたのだと思います。
先ほども登場した公益社団法人「Marriage For All Japan – 結婚の自由をすべての人に」によると、2024年3月の時点で日本以外の世界の国々ではヨーロッパ、南北アメリカ、オセアニアなどの37の国と地域で同性婚が認められているそう。
アジアでは、同性婚を認めているのは2カ国のみ。2019年にアジアで初めて同性婚を導入した台湾と、昨年それに続いたネパールです。
タイでも今年6月27日、下院が同性婚を認める法案を可決したことが日本でもニュースになりました。
この後上院での可決と王室の承認を経て、年内にも同性婚が成立する見込みであると言われています。(参考:NHK)
同性婚というと、欧米諸国のものというイメージがあるかもしれませんが、近年アジアでも少しずつ認められ始めているのです。
日本での迫害を受けた同性カップルを「難民」として受け入れたカナダ
昨年2023年秋、カナダ政府の移民難民委員会は、日本人の同性カップルを難民として認定しました。(参考:朝日新聞)
難民認定を受けたのは、「ハナさん」と「エリさん」。50代と30代の同性カップルです。
ハナさんとエリさんは自治体のパートナーシップ制度を利用していましたが、前述のとおり日本では国として同性婚やパートナーとしての法的な保護を受けることはできません。
そのうえ、職場や地域社会においても、ふたりは差別を受けていました。
そこでふたりは、日本よりも国や社会としてLGBTQ+当事者が守られているカナダへ移ることにしたそうです。
その際、ハナさんが取得できるビザが滞在期限のある学生ビザだったため、難民申請をするに至りました。
ふたりは日本での法整備の状況や、これまで日本でふたりが受けてきた様々な差別について、200ページを越える資料を作成し提出。その後面接や公聴会を経て、難民として認定されました。
認定に至る判断理由は、職場や社会のなかで性的指向を隠さなければならないことや、女性として受けてきたセクハラ。
国として同性婚やそれに順ずる制度などでLGBTQ+当事者が法的な保護を受けることもできず、当事者の人権が十分に守られていないこと。
日本全体で見ても、家父長制の考えが未だ根強い現状もあり、それらは国内のほかの地域に移ったとしても差別やハラスメントを受ける可能性があり、同性愛者や女性として差別やハラスメントといった困難から逃れることができないことなどが判断理由として認められました。
このニュースを受け、自分たちがLGBTQ+当事者であることが理由で感じている生き難さは、他国から“迫害”と認められる扱いなのだと、改めて重く受け止めた当事者は筆者だけではないはず。
ふたりを移民として認めたカナダで同性婚が認められたのは、2005年。
歴史的に見ても、カナダはLGBTQ+当事者だけではなく社会的に立場の弱いかたやグループを保護し、移民として受け入れてきました。
そんな背景も手伝って、いまやLGBTQ+当事者の人権を国として守る国として、世界各国から自国でセクシュアリティやジェンダーを理由に差別や迫害を受けているLGBTQ+当事者の方々の移住先としても知られています。
具体的には同性婚が認められているほかに、職場でのLGBTQ+当事者の保護(差別をしてはいけないこと)や、共同養子縁組や第二親縁組を認めるといった当事者の持つ権利についてもこの20年ほどの間で法律として明言され、法改正がなされています。
カナダは国として、性自認や性的指向を問わず、すべての人が取り残されることなく社会への参加が適う社会の実現のために、取り組み続けてきました。
カナダの移民法では、同性カップルも配偶者としてのビザや永住権の申請が可能です。
申請対象のファミリークラスのスポンサーシップには、最低1年間程度夫婦同然の間柄を継続して生活している未婚のカップルが対象になっていますが、異性カップルだけでなく同性のカップルも対象になっています。
ほかにもパスポートやビザ申請書の性別欄では、男女以外に「Xジェンダー」も選択できるそう。
カナダでは、そういった国としての取り組みもあって、LGBTQ+当事者が社会的にも広く受け入れられるようになっていきました。
LGBTQ+当事者のコミュニティが大きな、トロントやバンクーバー、モントリオールのようなLGBTQ+フレンドリーな都市は国内に多数あり、コミュニティとしての支援も盛んです。
日本でも行われているPrideパレードはカナダでも毎年夏に開催されていて、首相をはじめとした国からのサポートもあり、学校などの教育現場にも取り組みとして浸透しているそうです。
国として、向き合ってほしい
今回比較の引き合いに出したニュースや事例は、LGBTQ+当事者として日本に暮らしていては得られないことばかり。
「それが不満なら、制度を受けられるほかの国に移住すればいいじゃないか」と思うかたもいるかもしれません。
しかしどれだけの人が、「ああそうですね」と海外へ簡単に移住することができるのでしょうか。
どうしてLGBTQ+当事者だというだけで、ほかの国へ移住しなければ当事者でないかたと同じ権利を得られず、人権も守られないのでしょうか。
最低限、同性婚は一刻も早く法整備を行ってほしいです。
筆者がパートナーと互いを愛していることと、異性愛の夫婦がパートナーを愛していることのいったい何が違うのでしょうか。
生計を共にして、生涯のパートナーとして暮らしていくのだって、同性だろうが異性だろうが同じではありませんか。
日本も国として、真摯にLGBTQ+当事者に向き合ってほしい。いつまでも目を逸らしていないで、私たちの権利と人権についてしっかりと目を向けてほしい。そう心から願っています。
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