当然、普通は、一般的にetc…、自分がいつの間にか身につけていた無意識の価値観で、その枠から外れた人を排除し、傷つけてしまうことがある。働き方や家族のカタチ、性的指向、ライフスタイルが多様化し、その違いを認め合うことが求められている令和の時代においてもなお。
今回ご紹介するのは、世間が向ける「再婚妻は当然こうあるべき」という姿と自分が乖離していることに戸惑い、悩んでいる筆者の友人・美雨のお話。あなたは、人の家庭に、人のココロに、土足で踏み込んでいませんか?
取り乱した親友
20年来の友人、美雨が取り乱した様子で電話をかけてきた。電話口からは、彼女がすすり泣く声とともに車やバイクが走り去る音が聞こえてくる。
「もしもし、美雨…?どうしたの?外にいるの?」
そのとき、彼女が何と答えたかのは覚えてないけれど、このままでは美雨が危ないという気がして「とにかくうちにおいで」と声をかけた。そばでは幼いふたりの息子たちが心配そうに私の方を見つめていた。
美雨が到着したのは、それから1時間ほど経ったころ。手に下げたコンビニのレジ袋のなかに、子どもたちのためのアイスやお菓子が入っているのがわかった。
いくら取り乱していても、こんな風に気を遣えるのが美雨らしい。「平日の夜なのにごめんね…」美雨は消え入りそうな声でいうと、「これ、子どもたちに」とレジ袋を私に手渡した。
たまたま早く帰宅していた夫が気を利かせて、子どもたちを寝室に向かわせる。「アオイのママ、おやすみ」不思議そうな顔で見つめるわが子たちに、美雨も「うん、おやすみ」と返す。
「アオイは?順也さんと一緒?」と訊ねると、力なく首を縦に振る。7歳になる美雨の娘のアオイはパパっこだから、夫の順也が一緒なら心配ないだろう。
「それで、どうしたの?」と聞いた私に、美雨は再び目に涙をいっぱい溜めて話しはじめた。
「うちのダンナ、再婚でしょ?でもさ、そんな過去を私はぜーんぶ受け止めなきゃダメなのかな?誰に何をいわれても、結婚しちゃったら我慢しなきゃダメなのかな?」
順也はバツイチで、前妻との間に子どももいる。ふたりの共通の友人が開催したBBQで順也に一目惚れした美雨は、最初そのことを知らなかった。いざ付き合うことになったとき、順也から「実は俺、バツイチなんだけど、それでもいいかな?」と打ち明けられたという。
「そのときも、『あ、そうなんだ。全然オッケーだよ!』なんていえなかった。ほら私、結婚に憧れてたでしょう?『結婚』という二文字が重く響いたというか、前の奥さんに嫉妬みたいな気持ちが生まれてさ。でももう好きになっちゃってたし、せっかく両思いになれたんだしって、付き合うことにしたんだよね」
それからふたりは1年ちょっとの交際を経て結婚したのだが、前妻との間に子どもがいることを知ったのは、交際から半年以上経ってからのことだったという。
「同棲する前に、『結婚したい』という私の気持ちは伝えてたの。彼も『結婚したいね』なんていってくれてたんだけど、なかなか前に進まなくて。ある日不安になって、『ねえ、ほんとに私たち結婚するの?』って聞いたらたら、『黙っててごめん…俺、前妻との間に子どもがいるんだ』って。
青天の霹靂とはまさにことのことで、時が止まった気がしたよ。バツイチってだけでも抵抗があったのに、自分以外の人との間に子どもがいるだなんて…。
順也はそれがわかってたから言い出せなかったんだと思う。そのとき彼、震えてたし、泣いてたし…『美雨を失いたくてなくていえなかった』っていわれた。『捨てられるもんなら、自分の過去を捨ててしまいたい』とも。それからふたりで朝まで泣いて、それでも私は何もいえなくて…」
そのときのことはよく覚えいる。順也の過去を知った美雨は、同棲していた家を出て、数日間わが家に泊まっていたから。結局、結論が出ぬまま帰って行ったのだけど。
その後、美雨から「結婚することなった」という話を聞いたときは、心から嬉しかった。お似合いのふたりが過去を乗り越えて結婚するんだ、と。
でも、ふたりが順風満帆に結婚したわけではなかったことを、この日初めて知った。