好きだから、どうしても受け入れられない
「順也さんに相談したり、やめてほしいっていってもらったりしなかったの?」と尋ねると、美雨はこう答えた。
「わが家の中で、というか私のなかでその話題は完全なるタブーだったから、口に出すことすらはばかられていえなかった。普段は“うちのダンナは再婚で、ほかにも子どもがいる”なんてこと忘れて、初婚家庭と同じように過ごしてるからさ。
結婚して9年経つのに、私はまだ乗り越えられていないというか、受け入れられていないんだよね…。順也への気持ちは変わらないどころか、ますます深まっているからこそ、思い出したくもない。考えれば考えるほど自分が冷静でいられなくなるのは目に見えているし…」
「自分だけを見てほしい」「ほかの人に気持ちを向けないでほしい」この思いは結婚したって同じなのだ。子どもへの影響も考慮して、なるべく波風を立てず、穏やかに過ごしていたいという思いもよくわかる。
「でもね、先日順也に伝えたんだ。実はDさんからこんなことをいわれたことがあって、またいわれたらとても耐えられそうにないから距離を置きたいって。順也はDさんが口にした内容にすごく驚いていて、『嫌な思いをさせて申し訳ない』って謝ってきた。そして『一度D先輩に話すよ』っていってくれたんだけど…。
先輩と後輩の間柄だからなのかな?Dさんと昨日飲みに行った際、あろうことか『ママたちをもてなす会をしよう』なんて計画を立ててきて。それを聞いた私は『順番が違う!』と怒り心頭。だって、また何をいわれるかわからない環境下でもてなされるも何もないじゃない?順也は『タイミングを計って伝える』っていっていたけど、私は待てなかった。そして喧嘩…。
その勢いでDさんの奥さんに電話しちゃったんだ。『実はわが家ではこの話題はタブーなので、もう持ち出さないようにお願いできませんか?』って。もちろんDさんを責めたりはせず、『私たちがお伝えできていなかったのが申し訳なかったのですが…』といういい方で」