夫婦喧嘩のワケ
さて、その後結婚し、子どもを授かり、ほとんど喧嘩もせず、仲良さそうに暮らしていた美雨夫婦に何があったのだろう?
突然やってきた親友は、その涙のワケをこう話した。
「順也が昔勤めていた職場の先輩で、順也のことをすごく可愛がってくれていたDさんという方がいるんだけど。私と結婚するにあたって電話番号を変えてしばらく経ったころ、たまたま家の近くで再会したんだ。どうやら近所に住んでいたみたいで。
ちょうどそのころ私は妊娠中、Dさんのところも第2子妊娠中で、上のお子さんも歳が近かったから、たまに行き来しあうようになっていったんだけど…。
会うたびに『あのころ、連絡が取れなくなって本当に心配したんだよ〜!何度も何度も電話するのにつながらないし、急に番号すら解約するしさ。誰に聞いても行方知れずで、いやぁ〜、あの日あそこで再会できてよかったよ〜』っていう話をしてきてさ。
実は順也は順也で、離婚ですごく大変な思いをしたのと傷ついたのとで、勤めていた職場を辞めて、自宅に引きこもっていた期間があったみたいなのね。携帯の電源をオフにして。Dさんからしてみると、連絡がつかなくなっていた後輩にバッタリ再会できてよほど嬉しかったんだろうけど、私はその度にすごく複雑な気持ちで…」
美雨の気持ちもよくわかる。順也からしても、避けてほしい話題だっただろう。でも、美雨のいう通り、事情を知らないDさんには悪気はない。…しかし、その後に美雨が話したことを聞くと、一気にDさんを擁護する気持ちにはなれなくなった。
「しつこいし、辞めてほしいなとは思ったけど、それだけならまだ我慢はできたと思う。でも、少し前にDさんがわが家に来たときに、順也が子どもたちと遊んでいる姿を見ながらしみじみと、『あいつはいま、自分の子どもと一緒にいられることがよっぽど嬉しいんだろうなぁ〜。いやぁ〜、よかったよ〜』って私の目の前でいってきて。
前にも、『あいつ離婚してすごく傷ついてるじゃん?結婚してくれて、あいつに笑顔が戻ったこと、本当に感謝してるんだよ。頼むから幸せにしてやってよ』みたいなことをいわれたことがあって。『そもそも私は“離婚で傷ついた”順也を慰めるために結婚したわけでもないし、余計なお世話だし』と思うと同時に、『この人とは距離を置こう』って思ったことがあったんだけど、先日の一件でDさんに対する拒絶反応が生まれてしまって…。
子どもが生まれてから時々家族ぐるみで遊んでいた間柄だったけど、『この人は私の子どもを見ながらそんなふうに思っていたんだな』と思うと、『もう会いたくないし、私の子どもとも二度と触れ合ってほしくないな』って思ったんだ。
無神経にセンシティブな話題を持ち出してくるような人だから、前妻ともつながっているDさんは、『前妻との子どもが〜』とか言い出しかねないし、なんならおせっかいを焼いて順也と前の妻子をつなげかねない。それもすごく脅威だった」
酔った勢いもあったのだろうか。よその家庭に土足で踏み込んでくる人がいるものなのだと唖然とした。確かに距離を置きたくもなる。
しかし美雨はそのことを順也に相談しなかったのだろうか?Dさんに「やめてほしい」といえるのは、順也さんしかいない。