こんにちは、椎名トキです。僕は身体の性が女性で、心の性は定めていないセクシャル(セクシュアル)・マイノリティ。女性のパートナーと暮らしています。
彼女とのことは、両親と親しい友人や一部の同僚、上司、匿名で活動しているSNSやWebでの活動では、こうしてオープンにしています。僕にとってオープンでいられる環境は、とても居心地のいい、大切な場所です。
こうなるまでには10年ほどかけて少しずつ、ひとりひとりにカムアウト(セクシャルマイノリティであると打ち明けること)をしてきました。きょうはカムアウトをしてきたなかのひとつの出来事についてお話します。
カムアウトする相手を選んでいる
僕が誰かと出会う際、オープンにしているSNS以外の多くでは、相手は僕を「異性愛者だと思っているのでは」と考えています。それは僕がセクシャルマイノリティであると知っている友人たち、同僚、もしくはそれ以外の場所でも同じです。
積極的に「異性愛者です」と偽ってきたわけではなく、単にいまやいままでの日本では、カムアウトをしていない状態では異性愛者であると思われがちであると感じています。
そのため、僕が心の性を定めず、女性のパートナーを愛しているというアイデンティティをオープンにするには、カムアウトをしなければなりません。
幸いにも、いままでカムアウトした相手から「気持ち悪い」だとか、拒否や否定をするような発言をされたことはありません。カムアウトをした相手の方々がセクシャルマイノリティに対して偶然にも肯定的な考えを持った人たちだったというおかげでもありました。
第一にそういう人だからこそカムアウトすることができた。僕のアイデンティティを受け入れてくれそうだと感じた人を選んできたのです。
なりたい自分になるために
カムアウトをする相手は、両親や親しい友人などの理解してほしい人たちに対してだけではありません。たとえば僕は、美容師に髪を切ってもらう際にカムアウトをするかどうか、何度も悩んできました。
普段メンズファッションを好んでいて、できれば髪型もメンズカットにしたい。僕がなりたい理想の姿は、メンズカットでメンズファッションを楽しんでいる自分です。
しかしカムアウトしないままでは、「メンズカットをしてください」とは言い難く「短くしてください」程度にしか要望を伝えることができませんでした。それでは「女性のショートヘア」の仕上がりにしかなりようがありません。
言えないままある程度仕上がってしまうと、「もう少し切ってもらいたいのですが…」と言ったとしても、「これ以上切ると男性的になり過ぎてしまう」「女性はこのくらいの長さのほうがお似合いですよ」と微調整以上は切ってもらい難い状況になってしまいます。
もちろん切ってもらうと髪が軽くなってさっぱりするし、プロに切ってもらっているのですから似合っていたと思います。
いっそカムアウトして、「僕をイケメンにしてください」と言えばよかったのですが、当時の僕にはその勇気がありませんでした。カムアウトをして、もしも気まずい空気になったらとか、美容師のかたに余計な気を遣わせるのは申し訳ない。
よく知っている間柄の人にカムアウトするのでさえ、言おう言おうと何度も試みてやっと言えるのに、それを初対面の人に言うのはハードルが高いと感じていました。
カムアウトができず、本当の要望が言い出せないことが原因で、数回通っては別のヘアサロンへ移ってと、いくつものヘアサロンを転々としてきたのです。