荒らしの正体
これは、Mさんの高校時代の話。
「むかし、ホームページを作っていました。絵を描くのが趣味だったので、描いた絵を載せるだけのサイトだったんですけどね」
Mさんは当時、一所懸命に覚えたHTMLタグやテンプレートなどを駆使し、イラストサイトを立ち上げていたそう。イラストサイトのランキングにも登録し、閲覧者も徐々に増えてきました。
「幼馴染の由香子もイラストサイトを作っていました。きょうは何人訪問してくれたとか、掲示板にこんな書き込みがあったとか、楽しんでいました。なかでも盛り上がったのがお絵描きチャットでしたね」
週末の午後8時から、1時間だけサイトの訪問者なども交えて、お絵描きチャットを楽しむ。Mさんがホームページを運営していたなかで、特に面白かったことのひとつがそれでした。
「いろんな人と絵しりとりをしたり、お題に合わせてキャラクターを描いたり、楽しく盛り上がっていました。由香子もたまにお絵描きチャットに参加してくれていましたね」
ただ由香子さんはあまりホームページのアクセス数が伸びず、自身のサイトでお絵描きチャットイベントを企画してもあまり集客できないことに悩んでいました。
「私のサイトは常連さんも結構できて、スカイプでオンライン通話をするほどの仲になりました。オンラインゲームを一緒にダウンロードして楽しんだり…。いまでもそのなかの数人とは年賀状のやり取りを続けています。ただ由香子はアクセス数のことで悩んでいたのでそういう話をするのはイヤかなと思い、ゲームや通話には誘いませんでした」
そしてある日、自身のサイトに設置していた掲示板が何者かに荒らされているのを発見します。その内容は、具体的な誹謗中傷が書かれた複数の投稿に、罵詈雑言を並べただけの幼稚な書き込みまでさまざま…。
「投稿を見て、慌てて削除しました。しかもその荒らし、1週間くらい続いたんです。常連さんにも相談しました。由香子も投稿を見たようで、心配して連絡をくれました」
時間が経てば落ち着くだろう。そう思っていたのに、荒らしの行動は掲示板だけではすまなくなってきました。
「お問い合わせフォームからものすごい量のメールを送ってくるようになったんです。しかも一晩中です。メールには、直視できないようなグロイ画像が添付されていて…恐怖で眠れなくなってしまいました」
そして、ついにはMさんの本名や住所まで掲示板に晒されるようになります。
「個人情報も知られているなんて…本当に怖くて、私はストレスで抜け毛が増え、食欲もなくなりました。それで、ホームページ自体を消すことにしたんです。常連さんにも、そのほうがいいとアドバイスをもらいました」
ホームページを消してひと段落したとき、Mさんは由香子さんに電話します。
「実はしばらくご飯も食べられなくなってしまい、病院に点滴に行くような日々が続いていました。ようやく元気になってきたタイミングで、久しぶりに由香子に電話したんです。災難だったねという話をしたあとに、体調はどう?と聞かれたので、もうだいぶ元気だよと言いました。そしたら『そのままくたばればよかったのに』と、小さな声で言われたんです」
驚いて無言になってしまったMさん。その後すぐに電話は切れ、次の日から学校で会っても会話することがなくなったといいます。