「剃刀買って!」母に懇願してみた
たかが体毛。されど体毛。いや、9歳の私にはされどどころではなく、人生における最大の事件だと思った。憧れのお姉さんと嫌いなクラスメイトが同じツルツルのスネを持っている。
お姉さんが持つスネと同じものがあの子のスネにあってほしくはなかったし、誰よりも美容やおしゃれに敏感だと思っていた私は、先を越された気持ちになりプライドを傷つけられたのだ。
帰った途端母に泣きついた。「剃刀買って!」「私もすね毛を剃りたい!」そう言って喚いた。
がしかし、母はいつまでも私に子どもらしくいてほしいと感じていたらしく、低学年から高学年に成長し、少女になっていく私に敏感になっていた時期。体毛を剃って女の子らしくなりたいという9歳の我が子に俗っぽさを感じたのか、断固として買わないと怒りだした。
喚き続ける私。怒鳴る母。両者一切引けを取らない攻防に終止符を打ったのが、仕事から帰ってきた父だった。
「お父さんも中学1年生のころ、恥ずかしくて大事なところの毛剃ったよ」そう困り顔で言う父に、母娘は大爆笑した。慰めにもなっていない唐突な告白に笑うしかなかったのだ。
父が言いたかったのは、そんな時期は誰にでもあるよねということらしかった。大喧嘩は終戦したものの、敗北は決まった。母の「剃刀使うなんて早い。パパとは歳が違う」という言い分をのみ、剃刀を買ってもらうことはできなかった。
でもそこで諦めるほど簡単な話ではなかった。代わりに中学生が読むような雑誌を買ってもらい、除毛について情報収集をすることにした。
除毛クリームやワックス、シールなどたくさんのものが紹介されるなか、除毛パフというものを見つけた。表裏にヤスリのようなものがついているパフで毛のある部分をクルクルすると除毛できるというもの。これなら安全かつ簡単。母とドラッグストアへ行き、ねだって買ってもらった。
使ってみると、自分のスネがツルツルピカピカになった。感動のあまり母に見せびらかす。複雑な心境であるかも知れなかった母も、私の喜び様ににこにこと笑ってくれたのを覚えている。