金の切れ目が、縁の切れ目。夫婦の末路
2020年5月中旬、緊急事態宣言が解除されればもとに戻るという陽子さんの淡い期待に水を差したのは、風光明媚な山間のレストランでの出来事でした。
目の前に広がる木々と湖、そして聞こえる小鳥のさえずりを楽しみつつ、朝食をいただける人気店。
夫婦2人で外食するのは緊急事態宣言が出された4月以降、はじめてでした。陽子さんはこの日を待ちわびていたのですが、政府が公表した「新しい生活様式」を守る必要があるので、完全にもとに戻るわけではありません。
このレストランで人気なのは当然、窓側の席。まだ空席があるにもかかわらず、夫婦は窓とは反対の壁側の席に案内されたのです。「空いているじゃないか!」と和夫さんが声を張り上げたのですが、2席に1席を空けるというのが店の方針でした。
和夫さんが何度同じことを連呼しても、店員は「そういう決まりなので」の一点張りで埒があかない状況。
そんななか店員や他の客から送られる「ソーシャルディスタンスを守らないなんて…」という痛々しい目線。
和夫さんは針のむしろのような状態に耐え切れず、「それならいい!本当にお前ら、何もわかっていないな!」と吐き捨てると食事もせずに店を後にしたそうです。
陽子さんは和夫さんを静止できなかったことを悔やみ、恥ずかしい気持ちに苛まれました。
「みんなが第二波、第三波が来ないよう注意しているのに…主人は『自分は特別』というタイプですが、この期に及んでも変わらないなんて。何より(店員や他の客に)主人と同じタイプだと思われたのは心外です!」
そして、陽子さんは筆者に苦しい胸のうちを打ち明けてくれました。
「主人の場合、6月から20%のカットだそうです」
陽子さんは筆者にこっそりと教えてくれましたが、和夫さんの勤務先は新型コロナウイルスの影響を受け、本社は3分の2の社員を解雇し、会社の存続に必死になっているとのこと。
日本(支社)は解雇せず、いまいる社員をどうにか守りたい。痛みわけで全社員の給与削減が決まったそう。
現在、和夫さんの家計負担は毎月8万円の家賃と4万円の生活費。しかし、和夫さんは「6月から厳しいから生活費は無理だ」と一方的に言ってきたのです。
それは陽子さんの給料で和夫さんの生活費を支払うことを意味するので、金銭的には和夫さんとの結婚生活を続ける意味が薄れます。
陽子さんの職業はテーマパークの嘱託職員(年収600万円)。「本当はお墓のために貯めておいたんですが…」と自嘲気味に言いますが、陽子さんは和夫さんに内緒で500万円の貯金を自分名義で確保。
退職金はないものの実家が空き家になっており、最低限のリフォームをすれば家賃なしで居住することが可能です。
筆者は「生活水準は現在と大差ないのなら、あとは気持ちも問題ですよ」と助言しました。
「主人とやり直そうという気持ちも多少、持っていました。しかし、主人は何も変わっていない…それが今回の新型コロナウイルスでわかったことです。離婚することに決めました」
そして今年の5月下旬。和夫さんの収入がもとに戻るのを待たず、家庭裁判所から調停の申立書を取り寄せたのが、筆者が把握している陽子さんの近況です。
有事こそ、夫婦の絆が強まるとき
本来、有事というのは夫婦の絆を再構築することができる稀有な機会。離婚寸前の夫婦が災害による避難、病気による看病、怪我による入院などによって配偶者の有難さを再認識し、やり直す方向へ転換したケースを筆者は数多く見てきました。
ところで今回のコロナ禍はどうでしょうか?人生最大級の有事に遭遇することで夫が反省し、心を入れ替え、言葉や態度を改めれば、コロナ離婚には至らないでしょう。
これは妻のことを第一に考え、感染対策に協力し、社会貢献を継続している場合です。
しかし、夫が相変わらず自分第一で、感染対策を無視し、自粛せずに外出し続けたら…妻は「何があろうと夫が変わることはない」ことに気づき、復縁の余地はないという結論を出します。
和夫さんのような非家庭的な夫がいままで許されたのは、最低限の生活費を渡してくれたから。コロナショックは尊い人命を奪うという直接的影響だけでなく、明日の金銭を失うという間接的影響も甚大です。
和夫さんのケース以外にも職場休業による給与カット、在宅勤務による残業代カットなどの事態が起こっています。妻の頬を札束で引っぱたくことを繰り返してきた夫の収入が大幅に減ったら、どうなるでしょうか?
金の切れ目が縁の切れ目。生活費を減らされるなら、これ以上我慢したくない。妻への不義理はスナックのツケ払いと同じです。いつまでもツケを解消しないとママの不満が爆発し、出入り禁止になりますが、それが夫婦でいうところの離婚。
妻は我慢の限界に達し、結婚生活を続けることをあきらめ、離婚へ踏み出すのです。しかも新型コロナウイルスによって妻が爆発するタイミングが早まっているので、心当たりがなくてもご自身の言動を振り返ってみることをお勧めします。
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