マイノリティに寄り添う企業と、寄り添っている“風”の企業
セクシュアルマイノリティなどの弱い立場にいる人に寄り添う姿勢を見せたり、SDGsの考え方に賛同することで「私の会社はいい会社である」と見せたいのではと疑いたくなるときがあります。
しかし必ずしもそうではないと、思うようにしています。
たとえば、よく見かける「売り上げの一部を○○へ寄付します」といった商品。共感できる取り組みも多く、筆者も売り上げの一部が動物の保護活動をしている団体へ寄付されるコーヒーを購入していたりします。
こういった商品の場合、商品の販売という企業活動に乗せて寄付活動をすることで、企業の体力をあまり問わずに継続的な支援に繋がりやすいですよね。
企業が単純に寄付をする場合、継続的に寄付ができるかはその企業の体力次第だけれど、企業側に多少の利益があるぶん続けやすくなるのだと思います。
販売することで、取り組みに共感したり興味を持つ購入者の目に触れることもでき、支援の輪を広げやすくするという効果も考えられるでしょう。
これまでセクシュアルマイノリティ向けの企業活動としてのサービスを展開させてきた代表的な業界のひとつは、おそらくウェディング業界でしょう。
セクシュアルマイノリティ当事者である筆者とパートナーがウェディングフォトを撮影したのは、2016年の秋。渋谷区がパートナーシップ制度を始めた、2015年秋からおおよそ1年後でした。
当時はまだ同性でのウェディングフォトの撮影や挙式がチャペルや結婚式場でできるようになり始めて間もない時期でした。
そして、すでに結婚式を挙げるカップルが減っていると言われていた時期でもありました。
「異性カップルだけでは売り上げが足りないから、同性も挙げられるようにしたのでは?」という邪推も少なからず散見され、一部からは「同性カップルを食い物にしている」と考えられていたのも事実です。
それまで同性であることを理由に、撮影も挙式も断られてきた同性カップルは少なくないという経緯を考えれば、そう言いたくなる気持ちもわかります。
しかし、異性カップルもウェディング業界にとっては「市場」であり、「食い物にする」も言い換えれば市場の「ターゲット層」であるということだと筆者は考えます。
だからウェディングフォトを撮影をする際に、どんどんセクシュアルマイノリティを市場に加えていってほしいと願っていました。
一方で、当事者として「いい企業」に見せるために寄り添うポーズをとられることは、たしかに不快だと感じることもあります。
企業ではないけれど、学生のころのクラスメイトに「私は同性愛者を差別しない。むしろ友達になりたい!」と言われたことがあるからかもしれません。
そのクラスメイトにはカムアウトをしていなかったけれど、セクシュアリティが理由で友人になりたいと思う彼女は理解しがたかったし、「差別をしない私はいい人である」という彼女の演出にセクシュアルマイノリティが利用されている気がしました。
「同性愛者と友達になりたい」という彼女の隣で、「この人にだけはカムアウトしないでおこう」と心に誓い、現に彼女にカムアウトをすることはありませんでした。
話を戻して、彼女のように「寄り添っている“風”」に見える企業は、それがポーズであると当事者に察知されがちです。
理由はさまざまあれど、多くは商品やサービスもしくは企業として発信していることが実情に即していなかったり、商品やサービスの受け手がどう感じるのかという気持ちや感情の部分がズレてしまっているのだと思います。
何かと話題の歌舞伎町タワーに設置されているジェンダーレストイレが、LGBTQ+当事者からも「誰のためのトイレなのか」と言われているのがいい例でしょう。
寄り添っている“風”のナンチャッテダイバーシティ企業は、昨今批判の対象になっています。
本当に「寄り添いたい」と企業側が考えていても、そう見えてしまったら考えていないのと同じことになってしまうのです。
実情や本来のニーズからズレてしまわないようにするのが、何より大切。
「MEN」「WOMAN」のほかに「男女兼用」も販売しているユニクロを例にしてみましょう。
「男女兼用」のアイテムは、シンプルなデザインで性別だけでなく着る人を選ばない印象が特徴で、毎シーズン展開されています。
2010年代半ばに女性がメンズ服を着ることがちょっとしたブームになって以降、ユニクロは「女性が着ることができるメンズ服」からはじまり、男女ともに着ることができるというニーズに応えてきたのだと感じます。
数年前、ユニクロの店舗でメンズ服がウィメンズフロアに置かれはじめただけで、筆者は嬉しい驚きを感じました。身体は女性だけれど、メンズ服を好んで日常的に着用しているからです。
メンズ服のウィメンズフロア進出から間もなく、今度は「男女兼用」の表記を見かけるようになりました。
男女兼用の表記のものはウィメンズフロアにもメンズフロアにも置かれているから、僕のように身体が女性であっても、ジェンダーレスなコーディネートを楽しみやすくなったのではないかと思います。
もちろん、これまでも迷わずメンズフロアに足を運び続けていた筆者のようなオープンなタイプも、引き続き楽しめています。