とんでもない「暴言」に…
そんな現実が変わったのは、義母の暴言がきっかけでした。
「町内会で小さなお祭りを開くことが決まったときでした。いつものように『週末は7時に公民館に集合ね』と義母は言うのですが、その日はたまたま私の休日出勤が決まっていて、子どもたちは夫が見ることになっていて。
この数カ月私も業務が忙しくて義母の誘いを断ることが多かったのですが、事情についてはきちんと説明していました」
その日は家族で義実家に夕食に呼ばれており、夫も同席しています。
ショウコさんの言葉に、義母は大きなため息をついて、「仕事と地域の行事といったいどっちが大事なの?」と呆れたような声で言ったそうです。
「『あなたは仕事ばかりよね』と皮肉っぽい口調で続けられて、体が固まりました。町内会のことはあくまでボランティアで参加していて、仕事とはまったく別物です。
まさか休日出勤を断ってお祭りの準備をしろというのかと、頭が真っ白でしたね…」
「いま思い出しても怒りが込み上げます」とショウコさんは暗い表情で言いますが、責任のある仕事より地域の催し物を優先するのが当たり前、という義母の価値観はどうしても受け入れがたいものでした。
それでも、夫がいる場なら正面きって文句を言うわけにもいかず、「申し訳ありません」とだけ、ショウコさんは返したそうです。
「どうせ夫も義母と同じ感覚なのだろうなとそのときは思いました。仕事を休めとは言わないだろうけど、私に段取りが悪いだの要領が悪いだの言う義母を止めたことはなかったので、味方をしてくれるなんて期待していなかったですね」
その予想をいい意味で大きく裏切ったのが、夫でした。
それは「当たり前」ではない
義母とショウコさんのやり取りを黙って聞いていたという夫でしたが、そのとき「仕事が優先に決まっているだろう」と強い口調で言ったそうです。
びっくりして夫を見ると、同じようにぽかんと口を開けている義母の姿が目に入り、ショウコさんは溜飲が下がったといいます。
「町内会のことも大事だけど、俺たちは生活のために働いているんだ。仕事を断って地元の祭りに参加するなんて、会社に迷惑をかけていいわけがない。何を言っているんだ」
それは、ショウコさんと同じく正社員として熱心に仕事に取り組む夫の本音だったとショウコさんは振り返ります。
「別に、夫には私をかばうとか守るみたいな気持ちは薄かったと思います。ただ会社員として母親の非常識な考えが許せないという感じで、あんなきつい声で義母に何か言う夫は初めて見ましたね」
長男から責められるとは思っていなかったであろう義母は、「そうは言っても…」としどろもどろな様子でしたを向いたそうです。
休日出勤だから行けませんと言うショウコさんに、呆れたような声で地域の催しを優先しないことを責める母親の姿は、夫にとってありあえないものだったのかもしれません。
これまでも、「会合に呼ばれたけどきょうは残業があるから行けない」と早めの帰宅を促すついでに話したとき、夫は会合に行かないことには触れず「がんばって」と返してくれたことを、ショウコさんは思い出します。
「町内会の活動は仕事を差し置いてまでするものじゃない。母さんには当たり前でも、俺たちは違うから」と続けて口にする夫を、ショウコさんは胸がすく思いで見つめていたそうです。