母は「父の死」を無理に忘れようしているのかもしれない
その後も母のもとを訪れると、「お父さんはいつ退院するの?」と聞いてきます。母は、父がまだ入院していると思っているのです。
子ども(孫)が一緒にいるときは、「じいじは亡くなったんだよ。この前お葬式したじゃん!」と子どもから伝えてしまうこともありますが、母はまたすぐに忘れてしまいます。
すぐに忘れてしまう母ですが、葬儀が終わった後「情緒不安定になることが多くなった」とサ高住の職員から言われることがありました。
母は「父の死」を忘れているけど、「父を失った」という悲しい感情は心のなかに残っているのかもしれない。もしかしたら、母は「父の死」を無理に忘れようとしているのかもしれないと思うようになりました。
最後に
先日、父の納骨を終えました。
納骨のとき、母は「父が亡くなったこと」を思い出しましたが、いまでは「父が亡くなったこと」を完全に忘れています。
たまに「お父さんは生きてるんだっけ?亡くなったんだっけ?」と言うときもありますが、サ高住の住人の方に「旦那さんは亡くなったの?」と聞かれると、「亡くなってませんよ!」と強い口調で言ったりもします。
認知症で「父が亡くなったこと」を忘れているのだとは思いますが、母のなかで「父の死」を認めたくない気持ちもあるのでしょう。
認知症患者に「家族の死」を伝えるべきか、とても悩ましいことだと思います。
「家族の死を伝えるべきか…」「伝えてもきっとすぐに忘れてしまうから言っても無駄だろう…」「伝えたらうつ病を発症するかもしれない…」
多くの方は、このように思うかもしれません。しかし私は、認知症の進行状況にかかわらず、一度は「家族の死」伝えるべきだと思います。
なぜなら、認知症の人に対しても自律した人間として接し、本人の「知る権利」に配慮する必要があるからです。
私の母の場合は、「配偶者の死」という人生で最も辛い出来事だったと思います。それでも、「父の死」を伝えたのは、母にも「知る権利」があると思ったからです。
一度は、別居していた両親ですが、人生を共に過ごした「父の死」を母に隠すことは私にはできませんでした。
どんな選択が正しいのかは、正直わかりません。今回は、私の実体験をもとに「認知症患者と家族の死」についてお伝えしました。
この記事が、認知症のご家族を介護している方の参考になれば幸いです。
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