2021年6月。前の国会が閉会となり、自民党より予定されていた「LGBT理解推進法案」の提出が実質的な見送りとなってしまいました。
僕は女性のパートナーと暮らしており、体の性が女性で心の性を定めていないセクシャルマイノリティです。当事者としてこの法案を巡る動向には注目していたので、あまり進展のない結果に残念に感じています。
きょうは当事者である僕なりに、この法案について考えていることをお話しましょう。
「LGBT法案」って?
これまで全国で活動を続けてきた、100以上のLGBT関連団体の連合団体などをはじめに、多くの当事者や理解者のかたがたがLGBTへの差別を禁止する法案の制定を、国に求めてきました。
その当事者側から提示された法案に対し、自民党が提示した代替法案が、今回国会への提出を見送った「LGBT理解推進法案」です。当初の主目的は差別の解消でしたが、自民党はまずは理解を促進していこうと内容を変更しています。
この内容は、たとえば企業がLGBTを理由に不当解雇など雇用差別を行った場合に法的な指導が入ることはなく、あくまで普及啓発と就業環境の整備の促しなどを行い、国民の理解を深めるというもの。野党からは「指導や勧告・公表も必要では?」と修正を求められました。
差別を禁止するか、まずは理解を進めるか。一見「国民全体で理解を促進していくのならば、いまのままの理解促進法案でもいいのでは?」と感じますが、現状起きていて今後すぐにでも起こり得る差別や不当な扱いを具体的に解消していくことについては、あまり即時性のない内容といえます。
内容を慎重に協議し、調整を行うためというのが、今回提出が見送られたおおよその理由のようです。
法案の基本理念に含まれる「差別は許されない」という一文を巡り、一部の自民党議員からは行き過ぎた差別禁止運動や訴訟の増加を懸念し、反発も起きています。
また法案を巡り、ある自民党議員からは「(LGBT当事者は)生物学上種の保存に背くもので、生物学の根幹にあらがっている」など差別発言も相次ぎ、多数の抗議が寄せられました。
世界的に見ると日本は遅れている
ロイター通信によると、2021年開催された東京オリンピックでは、LGBTQを公表する選手が過去最多とのこと。世界中から日本に視線が集まっているいまだからこそ、ここで海外でのLGBTに関する法整備と、日本の法整備を比べてみましょう。
経済協力開発機構(OECD)は日本のほか、ヨーロッパを中心にアメリカなどの先進国が加盟しています。そのOECD加盟国でのLGBT当事者に対する法整備状況で、日本は2019年時点で35カ国中34位(参考:国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ)と、かなり世界に遅れをとっている印象です。
同性婚に関していうと、2001年にオランダで初めて合法化されて以来欧州を中心に約30の国と地域で合法として認められており(参考:NPO法人EMA日本)、日本はG7のなかで国として同性婚を合法化していない唯一の国です(参考:NIJI BRIDGE)。
「日本でもパートナーとして認められているのでは?」と思ったかたもいるでしょう。確かに2015年に渋谷区・世田谷区でパートナーシップ宣誓の受付や証明を発行できるようになりましたが、これはあくまで自治体の条例としてのみのもので、法律上異性間での婚姻とは持つ権利や法的な効力がまったく異なるものなのです。