みなさんこんにちは。韓国に暮らして14年、私は現在ソウルで留学生対象にシェアハウスを運営しています。
韓国で部屋を探していると必ず耳にする言葉、「ウォルセ」と「チョンセ」。
ウォルセとは、保証金をオーナーへ支払い、さらに家賃を月々支払う方法で、日本の一般的な賃貸契約と似ている制度。
チョンセとは、高額の保証金をオーナ―へ支払うことで、家賃がタダになる制度です。
どちらとも、保証金は契約満期に返金されます。
チョンセは、日本にはない賃貸契約なので驚く人も多いでしょう。保証金は非常に高額ですが、家賃がタダになるので、韓国では昔からチョンセ物件は非常に人気があります。
しかし韓国では、2022年秋ごろから、このチョンセ制度を利用した悪質な不動産詐欺が多発しています。
「チョンセ制度」を利用した不動産詐欺って?
ソウル市に住むとある新婚夫婦は手頃な物件を探していたところ、チョンセ保証金2億ウォン(日本円で約2000万円)の「新築ヴィラ(低層の集合住宅)」を紹介されました。
その新築ヴィラは同時に分譲としても出されており、分譲価格もチョンセ価格と同じ2億ウォンでした。
通常、チョンセ保証金は分譲価格より低く設定されることが一般的なのですが、不動産価格の高騰とチョンセ物件の減少が加わり、当時新築ヴィラのチョンセ保証金が分譲価格と同一に設定されることも珍しくありませんでした。
また、その物件の登記簿謄本に銀行からの借り入れや、差し押さえなどの記載は一切なかったことと、オーナーが直接「保証保険(チョンセ契約終了時に貸主が借主に返還する賃貸保証金の返還を保証する商品のこと)」に加入するという条件での契約だったため、安心して保証金2億ウォンのチョンセ契約を交わしたそうです。
契約→残金支払い→入居と問題なく進んだのですが、実はこの夫婦が入居した日に、ヴィラのオーナーが変わってしまいました。オーナーがその夫婦が住むヴィラを売却したのです。
ちなみに、住んでいる家のオーナーが変わることは珍しいことではないので、夫婦は特に不審に思わなかったとのこと。
夫婦は契約満期2カ月前に新しいオーナーへ契約満了希望の連絡をしたところ、新しいオーナーは「自分は信用不良者になった。金(返金する保証金)はない」との一点張り。その後は、電話にも出ない状況になってしまったそうです。
しかもこの新しいオーナーは「保証保険」には加入しておらず、さらに新しい登記簿謄本には「差し押さえ」の文字が。
なんと新しいオーナーは夫婦が住むヴィラのほかに、1139もの物件を所有しており、総合不動産所得税など63億ウォンが未納状態になっていたのです。
こうして、夫婦は保証金2億ウォンを受け取ることができない状況に陥ってしまいました。
無資本でどうやって物件を保有することができたの?
では、この新しいオーナーはお金もないのに、一体どうやって1139もの物件を保有することができたのでしょうか。
これは新築ヴィラの「分譲価格」と「チョンセ価格」が同一という点がポイントになります。
夫婦が最初に契約を交わした元オーナーを「A氏」、被害者を「B夫婦」、新しいオーナーを「C氏」とします。
A氏は全10戸の新築ヴィラ(集合住宅)を建てました。A氏は10戸をすべて売却したいのですが、売却となるとなかなか買い手がつきません。
そこでA氏は売却するのではなく、チョンセで入居者を募集しました。チョンセ物件は人気があるので、すぐに入居希望者が見つかりました。「B夫婦」です。
A氏はこのB夫婦と保証金2億ウォン(約2000万円)のチョンセ契約を結びます。
B夫婦は保証金2億ウォン全額をA氏へ支払い、新築ヴィラに入居します。それと同時に、A氏はC氏へこの物件を売却しました。
売却価格と、チョンセ価格が同一のため、A氏(売り手)とC氏(買い手)の間には支払いが発生しません。
なぜなら、A氏(売り手)がC氏(買い手)から受け取らなければならない売買価格「2億ウォン」は、すでにB夫婦からA氏へ支払われているため、売買契約時のA氏とC氏の間の支払いを省略することができるからです。
その代わり、C氏は契約満了時、賃借人であるB夫婦へ2億ウォンの保証金を返金しなければなりません。
しかしC氏にはB夫婦へ返金する保証金2億ウォンがない。ここで問題が発生したのです。
このような手法を繰り返し、「C氏」は無資本で1139ものヴィラのオーナーとなったのです。