叶わなかった「同じ墓に入りたくない」
さて、最後に残された離婚の懸案事項は「お墓」です。過去にKさんがお墓のことを尋ねたところ、こうやって一笑に付したようです。「そんなこと(お墓のこと)は死ぬ間際に何とかすればいいだろ」。
Iさんは三男坊なので、長兄、次兄を押しやって実家のお墓を引き継ぐことも可能です。どうやら自腹でお墓を買うつもりはないのでしょう。
しかしIさんは気性の激しさが災いして長兄、次兄はもちろん、親戚中から距離を置かれているそうです。そのため、Iさんが亡くなった後、Kさんが叔父(Iさんの長兄、次兄)に対して「父の遺骨の行き先がなくて困っているから、実家で引き取ってくれませんか?」と頼み込むことも難しい状況です。
一方、Mさんの事情はどうでしょうか?Iさん(三男)と違い、Mさんは1人娘。しかし、すでに嫁に出ているMさんが実家の墓を守っていくことは難しいので、これは叔父に譲ったとのこと。
ただし、Mさんは「夫と同じ墓に入りたくない」という一心で、いまから4年前(Mさんが72歳のとき)に両親の遺産から400万円という大金を叩いて、自分名義の墓を購入したそうです。
もちろんIさんに知られないよう、内緒でこっそりと動いていたのですが、Mさんは離婚しようがしまいが、隠し墓の存在をIさんに知られないようにしたかったのです。
とはいえ、いかんせんIさんは金目のものに鼻が利くタチなので、Kさんに対してこんなふうに凄んできたそうです。「そういえば、離婚したらアイツ、墓はどうするんだ。行く先もないだろうに」と。もちろん、Kさんも墓の件を隠し通さなければならないことは重々、承知していました。
しかしIさんの言葉からは「どうせ行く先がないから本気で離婚する気なんてないんだろう」と感じられ、Mさんの覚悟を鼻で笑っているようには聞こえたそうで、Kさんも積年にわたる怒りがこみ上げてきて、思わず、こんなふうにいい返してしまったそうです。
「母さんの気持ちも考えてほしい。母さんはいっしょのお墓に入るつもりはないから。母さんのお墓は僕たちが守っていくから、好きにすればいいじゃないか!全部あんたのせいなんだからさ」と。
Kさんは勢いに任せて、ついつい墓の存在を白状してしまったのですが、Iさんはどんな反応をしたのでしょうか?Iさんは何も悪びれることなく、こういい放ったそうです。「おお、それなら俺も入れてくれよ」と。
Kさんは呆れ返って何もいえなかったそうですが、すでにKさんが「離婚交渉」のためにIさんの施設に通い始めてから3カ月が経とうとしていました。
しかし、Iさんのずうずうしさ、無神経な振る舞い、そして悪気のない暴言の前に「墓の件」で引っかかってしまい、そのせいで「熟年離婚の直談判」は押しても引いても前に進まない袋小路に陥ってしまったのです。そんなにっちもさっちもいかない状況でどうやって収束にむかったのでしょうか?
「もういいわ。お父さんも私のお墓に入れてあげるから」私は耳を疑いました。あれだけ嫌がっていたMさんが翻意し、Iさんを自分の墓に入れることを承諾して、この離婚劇は終息しました。
決して他人事ではない「熟年離婚」。万が一のときの参考になれたら幸いです。
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