誰の心にもある「決めつける」考え方
カムアウトをせずに自分の性、自分らしい性で生きるにはどうしたらいいかを考えてみましょう。自分自身の内側の課題もたくさんあると思いますが、今回は自分の外側にいるセクシャルマイノリティではないかたに注目したいと思います。
ご自身で「自分はセクシャルマイノリティではない」と考えているかたは、LGBTという言葉をニュースなどで耳にするようになったものの、「自分の周りに当事者はいないなぁ」「メディアで言っているほど本当に存在しているの?」と思ったことはありませんか?
これは当事者があなたの周りにいないのではなく、単純に本人が公表していないだけの可能性があります。いないのではく、あなたに見えていなかったのです。
服装や外見から察することができる人だけがセクシャルマイノリティと言うわけではありません。外見ではわからなくても、学校や職場、そのほかで普段一緒に話して笑い合っている目の前の人がセクシャルマイノリティ当事者かもしれません。
たとえば、僕は社内外問わず一部にはカムアウトをしているものの、公にセクシャルやジェンダーをオープンにしてはいないので、カムアウトをしていない人たちから見た僕はきっとメンズライクなファッションを好んでいるだけの異性愛者でしょう。
こうしてセクシャルマイノリティ当事者として文章を書いて発信しているいまでも、普段はパートナーとのことを関係性を友人として誤魔化して話すことのほうがずっと多い。
私生活では生涯のパートナーとして彼女と生活を共にしていても、それを知らない人から「椎名さんも結婚したらわかるよ」なんて言われてしまうこともあります。
あるときは「自分の周りにLGBT当事者はいない。見たことがない」と隣に座って言われたこともあります。そんな言葉に、僕は本当のことを何度も飲み込んできました。
しかしそれに対して怒っているわけではありません。なぜなら、そう言ってしまう人に悪気がないことがほとんどだからです。
悪意ある詮索は別として、あくまで他愛のない日常会話の話題のひとつとして扱っている印象です。知らないからこそ、悪気なく外見でわかる身体の性別由来のものや、恋愛、結婚は誰しも必ずするものだという決めつけをしてしまう。悪気はないので「傷つけるつもりはなかった」というのが本音なんだと思います。
そう感じているので、発言に対し、必要以上に責めるつもりはありません。知らなかったことに対して、気をつけることは僕にも誰にとっても難しい。
今回はセクシャルマイノリティについての話ですが、また違うマイノリティについてのことで僕に知識がないものは、なにか決めつけてしまっていることがあるのではとも思います。
身近に当事者がいないと思っていた人で過去の自分の発言で、決めつけによる発言に心当たりがあるかたには、もしかしたらいままで知らないうちに誰かを傷つけてしまっていたかもしれないということを覚えておいてほしいのです。
決めつけによる質問というのもあります。LGBT当事者ということを隠して暮らしていると、「(身体の性は女性なので)彼氏は?」「結婚しないの?」等の恋人や結婚の有無についての質問は大変答えに困ります。
この問いかけには、「身体が男性だから恋人は女性」とか「身体が女性だから伴侶は男性」なんて思い込みが含まれているなと感じます。加えて「恋愛は必ずするもの」「結婚願望があることは当たり前」といった思い込みが前提にあるのではないでしょうか。
こちらも悪気なく選んでしまいがちな話題でしょう。この質問はカムアウトすることを選ぶ選ばないだけではなく、当事者以外でも恋愛や結婚をすることを選ばない生き方をする人、いまは選ぶつもりがない人、恋愛や結婚以外で人生を楽しんでいる人で答えにくいと感じる人も少なくはないのではと考えます。
パートナーの有無を気軽に答えられる世の中だったならば、質問をきっかけにカムアウトをする人がいるかもしれませんが、残念ながら日本ではまだまだカムアウトをすることにハードルを感じる人が多い現状です。
聞かれなければ隠す必要もないので、こういう決めつけによる質問が減ると、少しずつカムアウトをしないことを選んでも、居心地よく暮らせる世の中になるように感じます。