性別役割分業、男女の賃金格差
「男は仕事、女は家事」といった性別役割分業の意識は、21世紀に至ったいまでもまだ根づいているように思います。
厚生労働省によると、日本では2020年の男性育休取得率は過去最高の12.65%となったものの、女性の81.6%と比較すると極めて低く、まだまだ性別により育児休暇を取りづらい事例が多くあります。
出産の有無にかかわらず、既婚女性であるだけで管理職への道が閉ざされたり、出産後の社会復帰に対してハードルを高く感じてしまったりと、女性のキャリアアップが困難になる状況もあります。
このような社会システムにより、“無償”の家庭内ケアを強いられている女性も少なくありません。
家庭内労働も家庭を支える重要な役割であるのにもかかわらず、「家族を養っているのは生産労働している男性側だ」との認識がまだ広がっているのも肌で感じます。
こうして、生産労働によりお金を握る男性と、賃金なしのケア労働を担う女性との間に優位性が生まれ、家庭が家父長により占領される家父長制的な考えが奥底に根づいてしまうのでしょう。
もう一つの問題としてあげられるのが、男女の賃金格差です。OECD(経済協力開発機構の加盟国)によると、2020年の日本の男女賃金格差は22.5%、韓国はさらに下回る31.5%と、主要先進国のなかでは最低レベルでした。
結婚出産した女性が社会に出て、男性と同じレベルの労働を行ったとしても、同じ賃金をもらうことができない現状。さらに、先述したケアする側が女性にある前提で、女性側には生産労働に加わり再生産労働を強いられる二重の負担が懸念されています。
家父長制の被害者は女性だけでない
「家父長制」「男性優位」といったキーワードは、特権を行使する男性にとってポジティブなものだと認識されがちですが、同時に“隠れた生きづらさ”を感じる人も多くいます。
レベッカ・ソルニットの『わたしたちが沈黙させられるいくつかの問い』では、「家父長制は、男性が自分自身を沈黙させることに始まる」ことを主張。家庭内だけでなく労働環境でも“沈黙”はしばし強制され、感情的な部分を封じ込められている脅威として説明されています。
その“沈黙”は、成長段階である幼少期から家庭内外で強いられ「男の子なのにピンクが好き」「男の子は泣かないで強くあるべきだ」といった洗脳により、無意識に大人になるのです。
本書では、沈黙によって生まれた家父長制に対抗する女性、男性が存在し、同時に今の社会システムの共犯者となる女性、男性がいて、必ずしも男性のみが加害者になり得るわけではないことが示されています。
2019年の調査をみると、韓国の自殺率はOECDのなかでワースト1位の24.6人(人口10万人当たり)で、加盟国の平均率の約2倍におよびます。そして15.8人である日本は、G7諸国のなかでは不名誉にも一番高いことが結果としてわかりました。
両国では、女性よりも男性の自殺率が著しく高く、10代、20代、30代の死因の1位が自殺であることから、社会システムによる起因が考えられます。
家父長制の存在する国々では、多くの男性が過重労働からなるストレスや家庭を守ることへのプレッシャーなどを抱えています。
まるで仕事一本がその人や家族の人生を決めるように、男性が働かないことの選択はなく、強くて仕事ができて稼ぐことがあるべき男性の姿として、社会そして社会に生きる男女から無言の圧をかけられているのではないでしょうか。
そういった沈黙を強いられた男性たちは、育児休暇を取得しづらかったり、働かない選択肢を提示できない環境に置かれています。