当事者にもかかわらず身内の言葉にすがる夫
調停で、相手方となった夫はひたすら自身が抱える借金について「全額妻が払うように」と主張します。
借金は銀行のカードローンで、妻が体を壊して働けなかった期間や引っ越しで必要だったものですが、「妻に強制されて借りたもの」だと夫は言い続けました。
妻が不審に思ったのは、その金額。夫婦として同居している間、夫は家計を妻に丸投げしており、カードも通帳も妻が保管していたので夫の借りた額について正確に妻は把握しています。
しかし夫が口にするのはその3倍にもなっており、調停委員は妻の説明を聞いて首をひねり、「具体的な期日と借りた金額がわかるものを提出してください」と夫に頼みました。
夫はその場では「わかりました」と返しますが、次に調停室に入ってきたときは「通帳を見ればわかるはず」と提出を拒み、言うことが変わるため調停はなかなか進みません。
裁判所には兄が一緒に来ており、夫は調停委員からの申し出を兄に伝えて、その返事をそのまま話しているようでした。
その様子を調停委員から聞いた妻は、「自分の離婚なのに、決断をすべて兄に任せているのだな」と感じたそうです。
妻が求めた浮気に対する慰謝料や謝罪については、「2万円なら払ってもいい」「遊びだから謝る必要はない」と誠実に向き合う言葉はなく、調停はどこまでも「俺が抱える借金を全額払わないなら離婚はしない」という夫の主張に振り回されていました。
お金に執着する兄の“目論見”
調停が開かれるのは月に一回、申立人と相手方は交互に調停室に呼ばれ、それぞれ20~30分ほど話して交代します。
ふたりの考えを聞いた調停委員は納得できる道筋を探し、「こうしてはどうか」と伝えて妥協を求めるのが普通です。
短い時間ではすぐに結論を出すのは難しくても、望む結果に近づけるためには歩み寄りが欠かせないのが調停。
それを理解していた妻は、「夫の借金は結婚生活で必要だったものであり、全額を私が負担するのはおかしい。総額の半分を支払う」と最初から話しており、調停委員も納得して夫を説得していました。
対して夫のほうは、調停委員から「きちんと総額がわかる証拠を出して、折半してはどうか」「夫婦生活での借金をすべて妻に払わせるのは無理がある」と言われてもすぐには返事をしなくなり、控室から調停室に戻ったときには「半分ではなくいくらまでなら払えるのか」「隠し財産があるのではないか」と執拗に妻のお金について質問を繰り返します。
それらは「夫自身の考え」ではなく「その提案を聞いた夫の兄の考え」と感じられ、調停委員から聞かされる夫の姿は「伝書鳩でしかなかった」と妻は言いました。
一回の調停で話は何も進まず、借金の明細も提出しなければ調停委員の言葉も受け入れない様子に、「早く離婚したいはずの私が折れるのを兄は待っているのだな」と妻はずっと思っていたそうです。
そして、「そのつもりならどこまでも争う」ことを改めて決意します。