家庭裁判所で行われる離婚調停(夫婦関係調整調停)は、調停委員と呼ばれる人が間に入り、双方の意見を聞いて納得する案を出しながら進めます。
調停委員は裁判所が選んだ民間の人で、法律など専門的な知識を有していることがほとんど。
「裁判所の人間なのだから、公正な判断をしてくれるだろう」と期待しますが、なかには偏見を持っていたり一般的に知られていることでも未知なままであったり、頼れるとは言い難い人もいます。
そこきょうは、離婚調停ではどんなことが起こり、どんな人間が登場するのか、数々の離婚裁判を傍聴し、調停についても数多のヒアリングを行なってきた筆者が見た、調停委員のリアルについてご紹介します。
- ※本記事は実際の調停内容をもとに、本人特定に繋がらないよう一部フィクションが含まれます。
そもそも「調停委員」の役割って…?

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配偶者と離婚したいとき、離婚そのもので争ったり財産分与で揉めたり、また親権をどちらが持つかが問題になったりと、当事者だけでは解決できないことが多々あります。
そんなときに利用できるのが「離婚調停」で、家庭裁判所におもむいて話し合いの場が持たれます。
調停委員は、双方の話を聞いて妥協案をまとめるのが役目です。弁護士の資格を持っていたり、団体の役員や理事などを経験していたり、豊富な知識を持っていることが条件となっています。
離婚調停では調停委員が男女一名ずつ選ばれ、ふたりの状態を中立の立場から見て、納得のいく道を一緒に考えてくれます。
提案に強制力はありませんが、客観的な意見をもらえることでお互いに歩み寄る点を見つけ、円満な解決を目指せるのがよい点です。
しかし、調停委員がすべて「まともな人」かというとそうではなく、知識とは別にその人個人の価値観や偏見が前に出たり、ある分野では無知であったり、こちらが首をかしげるような人も実際にいます。
ここからは、筆者が見聞きした調停委員のエピソードをお話しします。
モラルハラスメントを「当然」と言った調停委員

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Aさん(34歳)は、結婚して4年になる夫のモラルハラスメントに苦しんで離婚を決意しました。
お互いにフルタイムの勤務であるにも関わらず、夫は「家事をするのは嫁の仕事」と掃除や洗濯などをすべてAさんに押し付け、せめてとゴミ出しをお願いすれば「男がすることじゃない」と文句を言い、それでもAさんは逆らえずにいました。
離婚を決めたのは夜のベッドを強制されたからで、仕事が終わって家事をやりクタクタのAさんが「疲れているから」と断ると、「夫に恥をかかせるのか」と、無理やり押し倒すそうです。
そんな生活で心身ともにボロボロになったAさんはご両親にすべてを打ち明け、両親も「とんでもない男だ」と離婚をすすめてきたため、家を出ることを決めました。
離婚を切り出すと、予想した通りに夫は大反対し、「離婚したければ慰謝料を払え」と迫ります。
Aさんは実家に戻って別居をはじめ、同時に離婚調停を申し立てますが、裁判所で顔を合わせた調停委員の男性から「あなたの話は大げさに聞こえる」と言われ、大きなショックを受けたそうです。
Aさんは夫の言動について何も記録を残しておらず、口頭でしか伝えることができなかったのが、不信を買う原因だったのかもしれません。
一方で、夫の「妻はろくに家事もやらず、怠けてばかりだ」という主張には「旦那さんの仕事が忙しいのはわかっているのだから、家事に協力するのが妻の務め」とあっさり受け入れており、「モラルハラスメントの実態を何も知らないのだな」とAさんは感じたそうです。
もうひとり、女性の調停委員は「無理やり体を求められるのは苦痛でしたね」と理解を示してくれましたが、それについて「強制した記憶はないし、そんな証拠もない」と話す夫の言葉を男性の調停委員は信じ、実際に強制を裏付けるものはないことから「夫婦なら営みがあるのが当然では」と口にします。
家庭で苦しい思いをしたのに、裁判所でもこんな言われ方をすることにAさんは深く傷つき、「いっそお金を払って終わらせようか」と考えますが、転機は夫が暮らす家に荷物を取りに行ったときに訪れます。
平日で夫はいないだろうと思っていたAさんでしたが夫は在宅しており、家に入ってきたAさんに「何をしに来た」といきなり大きな声を出したそうです。
そのとき、クローゼットの状態を写真に残そうと思っていたAさんはスマートフォンを手に持っており、とっさの判断でボイスメモを起動します。
「俺に恥をかかせやがって」「金を払え」とわめく夫の声を辛抱しながら聞いていましたが、Aさんが何も言わないことにさらに腹を立てたのか夫は「夫婦ならやるのが当たり前って言われただろう」とAさんに手を伸ばしてきたため、悲鳴を上げて玄関から飛び出します。
道路まで出てから慌てて両親に電話し、迎えに来てもらったそうです。
幸い録音はできており、次の調停で提出したところ、男性の調停委員は「顔色を変えた」とAさんは話していました。
自分の怒声が入った録音を聞いても夫は「モラルハラスメントとは言えない」と反発したそうですが、「これは暴力ですよ」と男性の調停委員にきっぱりと言われ、観念したそうです。
調停の最初ではモラルハラスメントを認めなかった調停委員でしたが、録音が提出された際に「お前は昔から役立たずだ」という夫の罵声を聞いて、「以前からこうだったのですね」とAさんの話に改めて耳を傾けたそうです。
このように、残念ながら女性の言葉を「大げさ」と受け取る調停委員は少ならからずおり、モラルハラスメントやDVは記録を残すことが重要だと知ったケースでした。