調べずに「それはおかしい」と言い切った調停委員

image by:Unsplash
Bさん(41歳)は、個人事業主として開業届を出し、仕事をしています。夫の年収は300万円以下で、当時は市営住宅に住んでいました。
Bさんの仕事は順調で収入が増えていきますが、夫の年収と並ぶほどになったときから、夫のモラルハラスメントが始まりました。「調子に乗るな」「家庭を優先しろ」と言っては家事を放棄する夫に、それでもBさんは耐えていたと言います。
離婚を決意したのは、市営住宅の管理センターから「収入超過のため退去すること」と通達が来たときで、これを見た夫は「お前が収入を下げればいいだろう」とBさんに迫りました。
妻が稼ぐことが気に入らないというだけで市営住宅にしがみつく夫に嫌気がさしたBさんは、子どもを連れて実家に戻り、離婚調停を申し立てます。
夫は離婚に同意したものの、Bさんが出ていってから自身も別のアパートに引っ越しており、かかった費用について「全額妻が負担するべき」と求めてきました。
Bさんへの「収入を下げろ」という発言については、「言った覚えはない」と調停委員の前で話したそうです。
女性の調停委員は、「これだけで離婚するのは早計では」とBさんを諭したそうですが、それまで家事や育児を放棄していた夫の様子を伝え、「市営住宅を出ないために収入を減らすのが当然」と言い切ったことも話しました。
ところが、この調停委員は「収入が規定を上回ったからといって、いきなり退去を求めるのはおかしい」と言い切ります。
Bさんは「本当に退去しないといけなかったのですか?」と疑われたことにショックを受けました。
市営住宅の入居には審査があり、住めたとしても世帯収入が規定の額を超えるときは退去することが規約に書かれています。
収入の額によって入居が決まる市営住宅であれば、多くなれば資格を失うのは当然のこと。そうBさんは考えていましたが、それを知らない調停委員の姿には驚きでした。
管理センターからの封書を夫に渡していたBさんは退去の文言を証明する手段がありませんでしたが、管理センターのホームページに規約があるのを見つけ、改めて「収入超過の場合は退去」と書かれていることを確認し、その部分を印刷して提出しました。
それを読んでやっと女性の調停委員は納得しましたが、「こんな手間をかけさせられるのが信じられなかった」とBさんは話します。
夫のモラルハラスメントは証明できませんでしたが、「妻が勝手に出ていったとあなたは言うが、妻の収入を歓迎していたのなら引き止めて一緒に引っ越したはずでは」と言われた夫は、それ以上の反論をしなかったそうです。
家事や育児を必死にこなしながら、在宅で仕事も続けていたBさんの状態は日記で残っており、それをいっさい助けていない夫の様子が暴かれたことも、調停委員の説得を助けます。
結局、夫が主張する引っ越し代は自分が負担することで納得し、無事に離婚が成立しました。
調べればわかることでも、何もしないうちに「それはおかしい」と言い切る調停委員もいます。「調停委員だから何でも把握しているはず」と過信せず、自分の主張が正しく認められる証拠を用意しておくのも、スムーズな進行には欠かせないと思ったケースです。
- image by:Unsplash
- ※掲載時の情報です。内容は変更になる可能性があります。