配偶者と離婚したいけれど、条件が合わず進まないときに利用できるのが離婚調停です。
家庭裁判所で行われる離婚調停は、調停委員が間に入り夫婦それぞれの主張を聞き、妥協できる点を提案してくれます。
ふたりの歩み寄りが必須ともいえる離婚調停ですが、調停委員という何も知らない他人がいる場は、緊張するし思いをうまく口にできないことも…。
きょうは離婚調停を30件以上見てきた筆者が、調停でのりアルなやり取りについて、ご紹介します。
調停委員が明らかに変わった理由

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まずは、営業職の女性(39歳)のエピソードから。
「夫のモラルハラスメントがひどく、うつ病のような状態になってしまい逃げるように家を出て実家に戻りました。
両親は驚き、私の話を聞いても『それくらいはどこの夫婦でもあるから』と深刻に受け止めてくれなくて悲しかったです。病院に行き、うつ病の診断を受けてやっとつらさを理解してくれました。
そして、妻が実家に帰っても電話ひとつ寄越さない夫の状態にも腹を立て、離婚調停を申し立てることに賛成してくれました。
調停の呼び出しが届いてもこちらにはいっさい連絡をしなかった夫ですが、調停室では離婚は承諾するけれど『俺に無断で家を出ているし、離婚するなら慰謝料を払え』と言い出しました。
モラルハラスメントの具体的な証拠がなく、うつ病の診断書だけが頼りだったのですが、調停委員のふたりは『仕事やプライベートで問題はなかったのですか?』と私の状態についてあれこれと聞いてきました。
我が家は子どもはおらず共働きで、私は正社員として営業職に就いています。
仕事の内容や忙しさについて質問され、『それより離婚について話したい』と言ったけれど、私のうつ病の原因が本当に夫のモラルハラスメントなのかどうか、疑われているのは一目瞭然でした。
調停室での夫は家とまったく違い、常識人を装っていて、私の病気についても『気がつかず申し訳なかった』などしおらしい態度を見せているようです。
私が指摘したモラルハラスメントについても『そんなつもりはなかった』『病気だから神経が過敏になっていたのでは』と話すことに調停委員も同調しているようで、本当に悔しいし悲しかったです。
状況ががらっと変わったのは、離婚を諦めた私が『もう不成立でいいです』と伝えたとき。
それを聞いた夫は『俺は離婚したいから、金を払え』と調停委員に言ったそうで、『いまの奥さんは治療が優先だから、離婚についてはまた改めて考えれば』と話すと『ろくに家事もせず、俺に迷惑をかけてばかりのやつだ』『病気になったのは自業自得』『俺のストレスはどうなる』など“本性”を現したそうです。
それを私に伝える調停委員のふたりは明らかに様子が変わっており、前に話したモラルハラスメントについてまた詳細を尋ねられ、うつ病の原因は夫の可能性が高いと信じてもらえました。
私は離婚について夫に慰謝料を払う気はいっさいないという主張を通し、おそらく調停委員からも自分のモラルハラスメントの事実を突きつけられたのだと思うのですが、最終的に夫は慰謝料なしでの離婚に同意しました。
病気を抱えながらの調停で、代理人になれるのは弁護士だけで依頼するお金もなく、自分が出席するしかないのはつらかったですね。
調停委員の人に自分の状況を話すのも苦しくてうまく説明できないし、あのまま夫が本性を隠していたら本当に不成立になっていただろうなと思います」
調停室で顔を合わせる調停委員は、ふたりの状態をまったく知らない他人と同じ。
一から状況を説明すること自体エネルギーを使うし、こちらの思っている通りに受け止めてもらうことも、実際には難しいのが現実です。
ふたりの主張を聞きどうすればスムーズに話が進むかを考えるのが調停委員の役割ですが、配偶者が素直に自分の非を認めないことも多く、上記のようにうまくごまかすという人もいます。
モラルハラスメントやDVなどは、第三者が見て納得できる証拠があれば嘘の主張も否定しやすくなります。
会話の録音や暴力の痕跡の写真などは、裁判でも通用する有効なもの。調停委員は対等にふたりの話を聞こうとするので、客観的に判断しやすい証拠をできるだけ用意しましょう。
説明に自信がないときは、メモなどに書き出しておくことをおすすめします。